漫画 高口里純「ななひかり」感想

ななひかり 1巻

ななひかり 1巻

 
ななひかり コミック 全7巻完結セット (キャラコミックス)

ななひかり コミック 全7巻完結セット (キャラコミックス)

 

 面白かったです。
今まで読んだ高口さんの作品の中ではわかりやすかったし、ちゃんと終わりがありました。

高校生の光が、遺産相続の手続きのため、父(瑞穂一光)の隠し子に会っていくお話で、それを通して、隠し子と言われた子供たちは本当に瑞穂一光の子供なのか、瑞穂一光をめぐる人間関係、彼らの親たちの関係、途中から出て来る芦沼望はどう関わってくるのか、という謎を追求していく部分と、光を中心とした人間模様、出会っていく隠し子たち、学校の先輩、弁護士、母親との関わり合いの部分とが描かれるお話。

がっつり謎の部分もネタバレしますので、ご注意。

それとジャンルがBLにあたる作品ですので、男性同士のHなシーンが、BLにしては少なめですがあります。でもあまりがっつり描かれているわけではないので、すっとばして読めるんじゃないかとも思います。どうしても無理というわけではなければ、そこを抜きにしても面白い作品なので、読んでみてください。

ただ、Hシーンだけじゃなく男性同士の恋愛自体が無理だとやめといた方がいいでしょう。

 

まず最初に会うのは3歳の子とその母親で、ここはあっさり本当は瑞穂の子供じゃないというのがわかり、だから遺産もいらないと言われて終わります。瑞穂も弁護士の下小倉さんもそのことは知っていました。
この一人目はあっさり終わり、その後ももうほとんど登場しません。

2人目以降はそのまま光に関わっていくことになり、新たに登場する人がどんどんそのまま残って関わっていって、増えていきます。
一番年上の渡が27才で一番年が離れていて大人で、他は光を含め5人が同じ年の17才、しのぶが13才で、渡以外は年が近く、特に最初の方に出てくる由馬、しのぶと光は仲良くなっていろいろ関わっていくのが見ていて楽しいです。由馬が一番しっかりしてて、ちょっと純朴で騙されやすい感じの光を助けれくれます。
といっても、光は由馬やしのぶたちと仲良くなって離れたくないとは思いつつも、彼らに話せない下小倉さんや先輩との関係があったりして、光は結構彼らとは離れて別行動が多いです。

一番怖いなと思ったのは渡で、最初に光を監禁したり、下小倉さんにHして撮ったビデオを光に送ったりして光と下小倉さんを引き離そうとする工作がちょっと犯罪じみてるとことか、病んでる感じがして怖かった。
渡は瑞穂と母親の間に学生時代にできた子で、母親は瑞穂とは結婚はせず別れたけど、ずっと瑞穂のことを愛していて、その子供(光)のことも好きだったらしい。母親の人柄はよくわからないけど、そういうあまりに強すぎる愛情というか、未練が、自分たちは日陰の存在って感じになっちゃって、渡に暗い影響を与えちゃったのかもね、と思ったり。(フィクションだけど)
渡は他の隠し子たちのことはどうでもよくて、光と一緒に暮らしたかったらしい。
下小倉のことを調べていて彼がゲイでその場限りの相手と寝てるような人だとわかり、下小倉が光に性的なちょっかいを出してるんじゃないかと勘ぐって、光を守ろうとしてるのに加えて、自分のものにしたいという気持ちも抱えていて(でも渡の場合は光に性的な関心はたぶんない)、下小倉から光を離そうとするやり方が、下小倉に脅しをかけながら性的なちょっかいを出して嫌なことをしていくのが、すごーく嫌だった。

マスコミはイケメンって言ってたけど、髭だしあまりそう思わなかったし、登場人物の中で一番嫌い。
天涯孤独になった俺か救いようのない性悪の弁護士か、なんてことを自分で言っちゃ、言葉通りには受け取ってもらえないよね、なんかおかしいって見抜かれてしまう。わざとなのか本気なのか。
結局、光は渡の工作にそれほど翻弄されず、渡の孤独を埋めるのは自分じゃない、下小倉とのことは心配しないでと言い、渡は光のことはあきらめて、声をかけられた海外のレストランで働くことに。
そして最後は妻と子供ができたようで(話のみで登場せず)、彼は自分の家族を作って孤独から救われたのかなという感じで、丸く終わってます。

由馬の妹は、由馬のことが恋愛感情で好きなようで、由馬が瑞穂の子供かどうかに自分が由馬と結婚できるかどうかがかかっているようなことを言ってますが、そこで「んん?」っと思いました。
由馬と妹って実は母親が一緒じゃないの?とか思いましたが、そんなこともないようで、だったら結局、由馬が瑞穂の子供だったとしても異父兄弟なので、結婚は無理ですよね。勘違いしてるってことなのかな(作者も?)。そのせいかどうか後半は出てこなくなります。

4巻でマスコミの人が「瑞穂氏と結婚した当時、芦沼氏は既に亡くなってる」と言ってるのですが、その後に出てくる先輩や子温の母が語った芦沼望の話等では、瑞穂が結婚した時は芦沼望はまだ生きているようなので、最初は「んん?」っと思いましたが、たぶん作者が失敗したんですね。
マスコミの勘違いをわざと書いてるんだとしたら、この作品では過去の謎解きがある話なので、そういう部分は重要で混乱するから後で否定するとか、ちゃんとしてほしかったな。

少ししか出てきませんが、瑞穂一光と芦沼望の関係がすごくよかったです。
芦沼望は瑞穂に恋心をいだいていましたが、ずっと秘めたまま告白することはなく、友人関係のまま亡くなりました。回想シーンを見るとかなり親しい間柄だった様子が伺えます。
そして「瑞穂一光は芦沼望が死んではじめて後悔した」「少しでも彼の気持ちを知っていたら、と」と、どうやって知ったかはわかりませんが、芦沼望の死後、瑞穂は彼の気持ちを知ります。
そして、後悔した、知っていたら、というのは、おそらく瑞穂も芦沼望のことが彼と同じように好きだったという自分の気持に気付き、ちゃんと恋人関係になれていれば、と思ったのだろうと思います。
光への手紙で「それでもなお、僕は大切な君と引き替えにしても心を占める人がいる」と言っているのは芦沼望のことだろうと思うと、あーすごく切ないなーと思いました。
お互い想いがあったのにちゃんと結ばれなかったこの2人の関係が切ない。

瑞穂一光の光への手紙もよかった。
私はこういうレビューとかダラダラたくさん書いちゃう方なので、あんなに短く素敵に書けないなぁ。

物語の核心にはほとんど関係ない存在の、なずなが光の彼女っていうのが驚きで。
最初、光の幼馴染の女の子なのかなとか思ってました。ちゃんとセックスもしたことあるようですが、最近はしてくれないとかだそうで、なずなとのHなシーンはありません。なずなは全くのコミカルな役回りで、物語の中で光の心を占めるのは、隠し子たちのことや下小倉さん、芦沼先輩のことで、なずなのことを考えたり心配したりすることは皆無。なずなは芦沼先輩にヤキモチを焼いたりするけど、光は芦沼先輩、下小倉さんとキスしたりHなことしたりしても、なずなに悪いとか全くないし、メールとか連絡とか全くしようとしないし、ほんとに彼女なの?って感じです。便利に必要な時だけ使われる人で、なんで彼女にしたのか、幼馴染でもいいんじゃ?と思いました。

芦沼先輩は、最初の方は光のことが好きなようでキスしたりちょいちょいちょっかいをかけくる、ただの光の学校の先輩でしたが、実は瑞穂の過去話にがっつり関わりのある関係者でした。
最初は芦沼望は叔父だと説明しますが、実は母だということになっている人は本当は姉で、芦沼望は兄でした。
あまり詳しくは語られていませんが、実の母はイギリスにいる、俺も黒歴史、兄姉との年の離れ具合から、芦沼先輩はおそらく愛人の子でハーフで兄姉とは異母兄弟なのでしょう。
そして芦沼望が瑞穂への恋心を綴った日記を見つけて読んでいて、この物語の最初から瑞穂と芦沼望の関係や光が瑞穂の子供であることを知っていました。知っていたけど最初は光には隠していたんですね。そして自分と光の出会いを芦沼望と瑞穂になぞらえて、運命ではないかと思い、その考えに影響を受けて光を好きになったんじゃないかと悩んでいました。
芦沼先輩はゲイじゃないけど光のことは好きになっちゃったって感じみたいです。

で、光とは下小倉さんより先にHしてしまいます。Hシーンはあまりはっきり描かれてないのでたぶんしたんだろうなーって感じでしたが、後の会話からやっぱりHはしてたようです。たぶん芦沼先輩が攻めで光が受け。しかし光は後で「あんなことされたからって気持ちよくもなんともなかったのに」と言ってます。
最初これが芦沼先輩とのHのことを言ってるのか、直前に会ってた下小倉さんとのことを言ってるのか、よくわからなかったんですが、最後まで読んで読み返すとこれは芦沼先輩のことかなと思います。ちょっと酷い。仕方ないけど。
芦沼先輩は留学して、その後ほとんど、もしくは全く?光とは会ってなかったようです。
最終話、光が仕事で訪れたパリで再会した時、芦沼先輩は左手薬指に指輪をしています。それってつまり結婚したってことなのか。でも光とキスしてました。留学先はイギリスでしたが話の感じから今はパリに住んでいるのかな。
先輩は美形で、いいキャラだったけど、光からはたぶん先輩としての好意だけだったのかな。

下小倉さんの2巻に出てくるプロフィールを見たら31歳とありました。
が、下小倉さんは芦沼望が財産管理を任せていた弁護士事務所で働いていたはずで、芦沼望の存命中に働いていたんだと思ってたけど、それだと13、4年前のはず。年齢計算が合わない。芦沼望に直接会うことはなかったとは言ってるけど、その言い方って芦沼望は存命していなかったからという意味ではないように思う。

下小倉さんが、以前、芦沼望が財産管理を任せていた弁護士事務所で働いていた縁で2年前に瑞穂一光が遺書を作成したいと下小倉さんんのところにきました。そして瑞穂一光を好きになってしまったけど、どうにもできなくてその気持の処理に苦しんだようです。
その瑞穂一光の息子の光に関心はありましたが、最初はそれでどうにかしたいとは思っていなかったようです。光が自分は父親とは似ていないといったのが好奇心をそそったそうですが、そこはどういうことかよくわかりませんでした。
最初は恋人と別れたらしい下小倉さんに誘われて慰めと称してで、2回目は料亭に呼び出されてで、下小倉さんの方から光にHなことをしてますが、その後はずっと光の方からキスしたり触ったりをしてます。いつも突発的な行動って感じで、下小倉さんを襲ってます。
最初の方は光が芦沼先輩と下小倉さんとどっちが好きなのか、と思ったりしますが、光の方からキスとかHなことをしてるのは下小倉さんに対してだけで、芦沼先輩とはいつも芦沼先輩の方から行動していて光からすることはないので、光が好きなのは下小倉さんなんだな、というのはわりとすぐにわかります。
でも光本人はそれをなかなか自覚しないようで、芦沼先輩のことが好きで、恋なのだろうかと思ったり、下小倉さんのことを考えたり、自分の気持がわからずいろいろ悩みます。
自覚はないけど、下小倉さん好きーな行動をいろいろしてて、気持ちで動いてる感じです。
下小倉さんに急にキスしたり、襲ったり、送られてきた下小倉さんのHビデオを思わず何度も見ちゃったり、どうすればあのHビデオのように自分が下小倉さんにできるのかと聞いちゃったり。
最後の方でやっと光と下小倉さんはHします。が、1回目はちゃんとHしたのかいまいちわかりません。
触れるか触れないか、永遠に焦らされる愛撫、こんな地獄が続くなら私はきっと狂う、と言ってるので、ちゃんとHしてないのかも。2回目は、これもたぶんですが、してると思います。
光が攻めで下小倉さんが受けです。

下小倉さんはゲイで、序盤で恋人と別れたっぽい後は、その場限りの相手を物色してHしているらしきシーンがちょいちょいでてきます。H欲が強いんですね、きっと。
それで渡にたびたび襲われても拒みきれなかったんですね。

で、自分でそのあたりは自覚していて、光に対して、光はまだ高校生だし、そんなピュアな子を自分みたいな大人が汚してはいけないみたいなことを思って、最後は光から離れてしまいます。

瑞穂が光に他の隠し子達に会いに行くように仕向けたのは、実の兄弟じゃない子も含まれてるけど、他の兄弟達と出会って交流を持って、仲良くなってほしいと思ったから。

隠し子たちの真偽はというと、母たちの話から順一、子温、優の3人は芦沼望の子供。
瑞穂の手紙では、瑞穂の実子は渡、光、しのぶ、の3人だけと語られています。
が、由馬の母親がどちらかわからないと思っていることから、由馬も瑞穂の子供の可能性があって由馬は検査しないと真偽がはっきりしないんじゃないかなと思います。

芦沼望の子供3人の順一、子温、優と光は、光たちを追っていたマスコミの人の提案で、4人グループでCDデビューします。ここが、親の七光りのとこなんですね、たぶん。
瑞穂一光の隠し子騒動の話題にのっかってですが、芦沼望の子供3人は元々楽器をやっていたし、光もピアノをやっていたので、それをそのまま活かして、クラシック音楽のグループみたいです。
最初の時の人の時期が終わってからもなんとか続けて、海外で公演をするくらいにはなったらしい。

最終話は隠し子騒動の頃から5年たちます。
下小倉さんとはその間全くの音信不通とは。5年か〜長いなぁ。
公演先のパリに下小倉さんが遺産相続の手続完了報告にやってきて、久々の再会です。
下小倉さんが、キスの1つも奪うつもりで来たのに、と言ってて、わざわざ公演先のパリに来たくらいですし、光から離れようと思ったのを考え直してここに来たってことなのかな。
5年もあったら、下小倉さんにきっと恋人ができたりとかあっただろうし、それでもやっぱり光のことが忘れられなくて、とか、光ももう大人だし、きっと下小倉さんの中の踏ん切りとか、気持ちの整理がついてとかの何かのタイミングで、会いに来たのかな、と思いました。
芦沼先輩は好きだけど、光とは下小倉さんとくっついてほしかったので、最後、キスしてるところで終わって、たぶんきっと今度は恋人になれるよね、と思える終わりでよかったです。
一番最後、光ってフランス語でなんだっけ、ルミエール、で終わってるんですが、何で最後の言葉がルミエール?とちょっと思いました。特に物語中で出てこなかったと思うけど。

欲を言えば、この後もっとちゃんと光と下小倉さんのラブラブなところが見たかったですが、読んでよかったなと思う作品でした。
これより前に読んだ高口さんの作品は、ちゃんと終わってなかったり、登場人物のセリフや気持ちが理解できないことが多いものばかりだったので、この作品で初めて、素直に面白いと思えました。