漫画「風月主 王の椅子より魂の友」感想

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漫画「風月主 王の椅子より魂の友」感想
鄭珉娥(原著)/ 朴玧宣(著)/ 909(作画)
ネタバレありなので、ご承知の上。

ピッコマに掲載されているWEBマンガで完結してます。全42話。
貴婦人専用の男性版遊郭が舞台のお話で、風月主というのは韓国の新羅の時代にあったもののようです。韓国の時代劇みたいなもののようですが、このお話の中では韓国とか新羅という名前は出てきませんし、たぶんフィクションなので、そこは架空の国と時代のお話と思って読んでも特に支障はないと思います。
風月主というタイトルで同じあらすじのミュージカルが韓国で人気らしいです。

絵柄がわりと好みなので読んでみようと思いましたが、遊郭が舞台ということで、悲劇かもしれないこと、途中もツライことがてんこ盛りかもしれないことが、予想できるので、あんまりそういう暗い話をどうなるのかと思いながら読むのはツラくて嫌で、ちょうどビンゴでもらったコインがあったので先にラストを読んでしまいました。
主役二人や雲楼にいる男たちのやり取りは男友達同士って感じのコミカルな感じで楽しいんですが、主役二人の行く末、メインのストーリー部分はやっぱり悲劇でした。ラストは円満ハッピーエンドじゃないけど、ある意味ハッピーエンドといった感じの終わり方です。
それとBLになってますが、このお話の中では二人はプラトニックな関係です。キスさえもありません。
それと遊郭のお話ですが客とのHシーンの描写はありません。

 

悦(えつ)と捨担(しゃたん)は、貴婦人専用の男性版遊郭の雲楼の風月と弦月。
雲楼にきた男は、教育係に教育され、見習いを得て、弦月、さらに風月になっていくという体系になっていて、風月のほうが格上です。風月は客の夜の相手をします。
悦は女王のお気に入りです。
二人の過去、出会いや雲楼に来る前のこと、雲楼に来たばかりの頃のこと、悦が女王の目に留まるきっかけになった出来事、等は回想シーンとしてちょいちょい語られます。

悦は王宮で働くようなかなり身分の高い家のお坊ちゃんでした。子供の頃、悦が通っていた学校の教室のすぐ外で捨担が授業を聞いていたのを見かけて二人は出会います。捨担は橋の下に捨てられていた孤児で物乞いをして暮らしていました。捨担と一緒に入っていた紙に名前が書いてあるらしいので、それを読んでくれと悦に頼みます。そこには「捨担」と書いてあり「荷を捨てる」といったような意味で、これは名前じゃないと悦は思いましたが、捨てられたりしたものを持ち上げるってことだから、他人を助けたり救ったりできる人になってほしいってことじゃないかなと、説明してあげます。
つらい状況なのに明るく無垢な捨担の笑顔に悦はひかれます。
そして二人は仲良しになり一緒に遊んだりいろんなことを教え合ったり楽しい日々を過ごしていました。
が、ある時、悦の父親が反逆罪で殺され、家の屋敷が燃やされ家族もみんな殺されていまいます。
悦は助かりましたが汚名をきて生き延びるより屋敷に戻って死のうとしようとするところを、捨担が生きて汚名をはらそう等と言って止め、俺がお前を守ると悦を励まします。

 

それから二人は一緒に全国を旅しながら物乞いをして生活していました。
悦はお坊ちゃんだったのでうまく物乞いできず、捨担が大人に手伝うことはありませんかと話しかけ、暗くなってから食べ物をもらって帰ってくる様子が描かれていますが、この時、捨担に話しかけられた男が捨担を見て「上玉」と言ってることから、捨担のしていたことはおそらく売春とか性的な何かだったんだろうと推測できます。捨担の手のアザからは性的なことかどうかまでわかりませんが、性的なことをされている時に強く握られたとか縛られたとか、そういうことなんじゃないかと思います。現代では男が少年に性的なことをするなんて犯罪ですが、表立って語られることはないけど見た目のいい少年がお金を稼ぐ方法として昔からあったことなんだろうと思います。胸が痛いです。
悦も捨担が何をしているのが気付いてましたが生きるために気付かないふりをしていました。
でもどうにかしてこういう生活から抜け出したいと思い、必死で声をかけた上等な服を来た男性が、雲楼長(雲楼で一番偉い人)でした。

 

悦の父親が殺されたのは、まだ王になってなかった女王が王座につくための謀略のためで、女王が何の罪もなかった悦の父親達、大臣のような人達を全員、家族も含めて皆殺しにしたからでした。
雲楼長も殺される側の大臣のような人達の一人でしたが、女王と恋仲で側近みたいな存在(でも身分のせいで結婚はできず、建前の妻子を持つ)だったので死は免れました。が、この事件で雲楼長も死んだことにされ、妻子も殺され、別人として、風月の雲楼長として女王の手足となり生きてきました。そして悠真(雲楼長の次くらいに偉い人)はあの事件で実際に人殺しを実行した人の一人で、悦の父親を殺したのは悠真でした。
けれどもこの事件の真相を悦が知ることは最後までありません。

雲楼長は悦に声をかけられたとき、悦の本当の素性(かつての仲間の息子)に気付きました。そして罪滅ぼしのつもりで雲楼に悦(と捨担)を連れてきました。
けれども彼らに雲楼では衣食住の心配はいらないといういい面しか教えておらず、一度入ったらなかなか外に出れない限られた自由しかない世界だという事など詳しいことは教えていませんでした。
雲楼では新人は教育係に礼儀作法や教養や芸事を教えられ、しばらくは学校のような生活を送ります。おそらく雲楼での生活で二人にとって一番苦のない楽しい時期だったのではないかと思います。しかしこの時、行ってはいけないと言われていた場所に迷い込んでしまった二人は、女王の機嫌を損ねて殺された風月の死体が運ばれているのを見てしまいます。客の機嫌を損ねると殺されることもあるのが風月でした。死体として運ばれてきた風月が1ヶ月でよく持ったほうだと言われていたので、特に女王はかなりの数の風月を死に追いやっていたようです。女王に呼ばれた風月は死を覚悟するような状況でした。

 

そして悦と捨担が弦月になったばかりの頃、宴会を抜け出して散歩をしていた二人が出くわしてしまったのが女王で、この時に悦は女王に見初められ、夜、女王に呼ばれることになります。雲楼長に、悦が死体になったら捨担の面倒はみると約束され女王の元に行く悦ですが、ここで、絶対に死なず、捨担のために生きようと決意します。今まで父の汚名を晴らすため、女王になんとか会って事件の真相を知りたい、そのために今まで生きてきたと思っていた悦ですが、女王に会う機会を得て死ぬかもしれない状況になった今、事件の真相等よりも、悦が望むのは捨担と一緒に捨担のために生きるということでした。そしてこれからは捨担は自分が守ると決意します。悦はうまく女王の相手をし、気に入られます。

捨担はずっと弦月で、客の夜の相手をしたことはありませんでしたが、ある時、女王に敵対する王族の女性、真に目をつけられ、夜に呼ばれます。酒坏を持つ手が震える捨担。自分でも「雲楼に来る前はもっと嫌なこともさんざんされた」と言ってますが、おそらく男相手の売春のようなことをしてきたと思われる捨担が女性の夜の相手をするのを恐れるのは何故なんだろうとちょっと不思議に思いました。弦月になったばかりの時も女性の相手をする際に固まってしまい悦に助けられていて、捨担は女性が苦手なのかとも思いましたが、読み返してみて、雲楼に来て3年、そういったことから遠ざかっていたのと、元々好きでやっていたわけではないだろうし、嫌なのは変わらないのかもしれないと思いました。昔も嫌だったし、今も嫌、そして久しぶりなので体が震えてしまったということなのかもしれない。
しかし、捨担が呼ばれたことを知った悦が飛び込んできて、邪魔をします。当然、真は怒って悦を殺そうとしますが、悠真が、女王のお気に入りを殺して機嫌を損ねていいのか等となだめ、真にとっても女王が風月にうつつをぬかしているという噂が続いた方が都合がいいので、思いとどまります。

 

捨担は悦が死ぬかもしれないことをしたことに怒り、悦は捨担が夜の相手をしようとしたことに怒り、お互い相手のことを思い合って、相手が危険な(嫌な)目に合うことに怒ります。そして二人で雲楼を出ていこうとしますが、すぐに捕まってしまいます。

雲楼長の殺されたはずの息子は母親の命乞いのおかげで刺客に育てられ生き延びていました。それが悦達より後輩の蓮で、父だと思っていた刺客から真相を聞いた後、(おそらく)その刺客を殺し、雲楼長への復讐のために雲楼に来ていて、のし上がろうという野心を強く持っていました。本当は雲楼長の妻子を殺す指示を出したのは女王で、雲楼長は大臣達本人だけが殺されるのだと思っていて家族まで殺されるとは思っていませんでしたが、蓮は雲楼長が指示したと思っていました。そして彼の復讐は雲楼長を殺すのではなく跪かせて母と自分に謝罪させるというもので、その後で父と呼べるかもしれないと思っていたようです。
が、彼は野心を急ぎすぎ、状況を見定めるのを見誤っていて、悦と捨担を蹴落とそうとして、自分が女王に殺される羽目になりました。手を下したのは実の父である雲楼長です。蓮は自分の本当の素性を知らないままだったら平穏に暮らせていただろうと思います。しかし真相を聞いて、母を殺したとはいえ自分を今まで育ててくれて父と思っていた相手を(たぶん)殺してしまった彼の行為が彼の結末を招いたような気がします。実の父母とはいえ、事件当時、赤ん坊だった彼にとっては記憶にはない存在で、彼にとっての実在は刺客だった育ての父なのに、お話の中だけの人物の方が大事だったのでしょうか。目に見えない血の繋がりを優先するようなそういう世の中だったのかもしれませんが。かわいそうな人ですが悦と捨担を貶めようとしていたので自業自得といった感じです。

 

その蓮の女王への進言のせいで、女王は悦に捨担という存在がいることを知り、捨担を排除しようとします。
捨担が真に見初められたキッカケも蓮のせいでしたが、捨担はかわいい美形だったので、いずれ誰かに見初められ、夜に呼ばれることになったでしょう。蓮の進言がなくても捨担の存在もいずれバレただろうし、小島にある雲楼から舟の用意もなしに二人が逃げおおせることはできなかったでしょう。だから蓮は蓮がいなくてもいずれそうなったことのキッカケを作ったにすぎませんが、彼はそういう役回りでした。

そして捕まった二人は、捨担は蔵に閉じ込められ、悦は雲楼長のところに連れて行かれます。
実は女王は悦の子を妊娠していました。そして女王は悦を自分の夫、王として王宮に迎えることにします。
雲楼長に悦は、悦が女王の風月主になる時に、女王を喜ばせれば捨担と一緒に安らかに暮らせると言われたが、今はちっともそうじゃないのでここを出ていくと言います。ですが、当然、雲楼長がそれを許すはずもなく、悦は部屋に閉じ込められます。

 

悦は女王のところに連れて行かれ、女王から王の服を贈られ、王になり一緒に王宮で暮らすように言われます。最初は言葉遣いも変えてしおらしく話す女王ですが悦が拒むと元通り威圧的な口調に戻ります。やっぱりね、この人ってこの作品中、一番の悪人だと思うんだよね。雲楼長と昔、恋仲だったみたいだけど、今はただの手下扱いだし、雲楼長の妻子も殺しちゃうし、大臣たちの家族まで殺しちゃうし、風月たちも気に入らないってだけでたくさん殺してるみたいだし、典型的なわがまま独裁者って感じ。
雲楼長はそんな女王のことが今でも好きで、社会的地位も家族も失っちゃったから(女王のせいで)、今は彼には女王しかいないから、女王が最優先で女王の悪事に加担してはいるけど、彼は大臣たちの家族まで殺すとは思ってなかったし、いい人だった妻と子のことを思って片目を自ら潰したし、なるべく誰かが女王に殺されないようにしたりはしてるんだよね。捨担にもすまなく思ってはいる。悪いとは思う気持ちはあっても、それでも女王が最優先で女王の命令は絶対だから、女王に言われたら悪いと思いながらも殺しちゃうんだ。
だから結局、悠真が言うように女王も雲楼長も狂ってる。でも女王はほんとになんとも思ってなさそうだけど、雲楼長は女王程じゃない、内心は悪いと思う気持ちを持っている。
女王は雲楼長にも悦にも女としての気持ちを持ちつつも、結局は権力を求める野心のほうが勝って、すぐに手のひら返して残酷な仕打ちをするような人。

 

悠真は悦に助け舟を出します。悠真は悦たちの教育係だった男と親友で、悠真はその親友におそらく友情以上の感情を持っていました。が、親友が客の女性と一緒に逃げて遠くで暮らそうと計画していることを悠真にだけ打ち明けた時、きっとうまくいかないと思い、親友にバレないように舟を返してしまい、女性が心変わりしたのだと思わせて計画を阻止しました。悠真は彼の為と思っていましたが本当は悠真が彼と離れたくなかったのでしょう。ですが、その後それほどたたないうちに、親友は女王の機嫌を損ね殺されてしまいます。その親友の死体を見て、悠真は自分が計画を邪魔しなければこんな死に方をしなかっただろうにと後悔していました。悦の父親を殺したことへの懺悔とこの過去の自分の行いへの後悔から、悠真は悦と捨担を助け、二人を逃がす手助けをします。悠真が舟の準備をするから二人で逃げるようにと悦に言います。

捨担のことも雲楼長は最初、悦とは幼馴染で友情が深いだけだと弁護しますが、女王は、そうだとしても憂いは排除すると、当たり前のように殺そうとします。
女王と雲楼長は捨担のところへ行き、捨担を殺そうとしますが、捨担は今自分が殺されたら悦は女王を恨んで女王のところへはいかないだろうと思い、自分は真のところに養子に行くことになったと言って捨担が悦を説得すると言います。
部屋に戻り悦に会い、悦が女王のところへ行けば捨担は自由になれるし、真のところに養子に行くことになっているから自分は大丈夫だ、女王のところへ行けと悦に言います。

 

ここら辺の、捨担が死を意識して悦のためを思って行動する辺りから最終話までの話は、何度読んでも涙が流れます。最初、初めの数話だけ読んで先に36話〜最終話までの有料部分を読んでしまいましたが、それだけでも泣けました。

悦は捨担に一緒に逃げようと言いますが、この時は捨担を説得できません。
悦はあきらめかけますが、悠真にもっと必死になって自分の気持を伝えろと励まされ、もう一度捨担を説得しに行きます。捨担もこの時はかなりがんばって必死に自分の本当の気持ちを隠して嘘をつきますが、結局やはり悦が捨担の嘘に気付いて、説得に成功し、二人で逃げることになります。この後、宴会があるので、悦は怪しまれないよう、とりあえず宴会に出て途中で抜け出し、船着き場で捨担と落ち合う手はずにしました。

 

捨担が部屋に一人でいるところへ女王と雲楼長が来ます。
女王は自分の手に入らないなら悦を殺すとほのめかし捨担を脅します。
捨担は、「身の程知らずの俺の願いが悦を危険にさらしてしまう 悦は行けせちゃいけない」と思い、女王に悦の説得に成功したからこれで自分がいなくなれば悦は女王のところへ行くと告げます。そして、幕引きは自分でさせてほしいと願い許されます。
一人外に出て崖のところへ行く捨担。
「ついさっきまで怖くて仕方なかったのに 全然こわくないや いざここに立ってお前のこと想うと」
「この選択に悔いはない けど心残りがひとつ」
「俺の最期が お前の中に痛みとして残っちまうこと かな」
「悦 ありがとう 一瞬でも 幸せな夢を見させてくれて」
「最期まで俺の手を離すまいとしてくれて」
「悦 お前と会えてよかった ずっと一緒にいられて 幸せだった」
「最期にお前を守れて うれしい 悦 悦」
そう思いながら捨担は崖から飛び降ります。

この捨担のセリフ、悦への想いは何度読んでも泣けて泣けて仕方ありません。
最期に悦の名前を二度呼ぶところ、そんなところにも捨担の悦への想いを感じて、グッときます。
女王に悦の死をほのめかされ、悦のために、悦と逃げるのをやめてしまう捨担ですが、端から見れば、女王と雲楼長から離れられて見張られてないんだから、崖に行くのも船着き場に行くのも同じで、外に出られたなら船着き場に行ってしまえばいいのにと思ってしまいますが、そういう策略的なことを考えられない、素直で単純な捨担なので、悦が殺されることを恐れてしまってできないんだろうなと思います。

 

船着き場で捨担を待つ悦のところへ悠真が現れます。驚き、捨担は?と質問をする悦に何も言わず、ついてこいと崖のところへ悦を連れて行きます。崖のところに捨担の靴が転がっていることに気付き愕然とする悦。悠真は不吉な予感がして駆けつけた時にはもうこの状態で海辺を探してみたが・・と言葉を濁します。
状況から捨担が崖から落ちたことを悟り、待ってるって言ったくせに、捨担、と何度も泣き叫ぶ悦。
雲楼に戻り、魂の抜け殻のように捨担の位牌の前に座っている悦。
雲楼長が、真のところへ道を急ぐあまり足を踏み外したか、とシレッと言っているところが小憎らしい。
そして捨担は悦を王宮へ送り出してほしいと言い残して行ったと雲楼長が悦に言い、王の服を渡そうとしますが、悦は無反応。
悦は捨担が自ら命を絶ったことを知らないので、自分が逃げようと言わなければ、もう二度と会えなくても二人とも同じ太陽のもと同じ月を仰ぎ同じ風を感じながら生きていけたろうに、と思います。
でも、二度と会えなかったら、死んだも同然じゃないだろうか。それでも相手が幸せに暮らしているのだと思えることが心の支えになるのだろうか。

 

真が雲楼に来て、捨担を呼ぶように言いますが、悠真が捨担が死んだことを真に告げます。
捨担を養子にする書簡を送ってなどいないのに、そのせいで捨担が死んだとはどういうことかと雲楼長に問い正しに向かいます。そしてそれを追ってついていった悠真と一緒に、女王と雲楼長が過去の王座に着くための陰謀のことと女王の懐妊の話をしているのを部屋の外で聞いてしまいます。
それを知った真は急ぎ王宮に戻り王座奪還に向けて行動を起こします。

この時、雲楼長は女王に悦がいればもう自分は用済みなのかと問いますが、女王は雲楼長の功を忘れるわけがないし感謝しているが、我が手足であるのだから当然のことで、まさか当然のことに見返りを求めるのかと冷たい言葉を浴びせます。自分が女王になれた一番の功労者で昔恋仲でもあった相手に対して、この扱い、ほんとに酷すぎる。雲楼長の方はもう女王しかいない立場であるのに加えて、女王を好きな気持がまだ残っているので、女王から邪険にされても怒らずに女王優先の態度を変えないから、女王はそういう雲楼長の態度にあぐらをかいていいように扱っちゃってるんだろうな。女王の方は、おそらくあの日、雲楼長の妻子を殺したことを告げた後、立場や名を捨てて自分についてくるか自害するか迫った時に、雲楼長が片目を潰したことで、雲楼長が仮の妻のことを想っていたのかと、雲楼長は自分のことを想っているんじゃなかったのかと勘違いをしてショックを受けてしまったので、そこでもう雲楼長に対する恋愛感情は冷めてしまったのじゃないかと思います。いつからというのは定かではありませんが、今は全く雲楼長に恋愛感情はない様子。

 

悠真が雲楼長に、捨担を死に追いやったのは悦を王宮入りさせるための女王と雲楼長による謀だったのかと聞くと、あっさり雲楼長はそれを認めます。どれだけ血を流せば気がすむのだと悠真は激昂し、言わないでおこうと思っていた、雲楼長の息子が生きていて、雲楼長が殺した蓮がそうなのだと言いますが、雲楼長はそれを知っても全く動揺せず、それがどうした、離山も武狐も(雲楼長と悠真の昔の名前)あの日に死んだように我が息子も十数年に死んでいると言います。
悠真は悦にすべてを話すと言いますが、悦まで死なせたいなら好きにしろ、悦がいなくなれば女王はまた自分を頼るようになるという雲楼長の返事に、悠真は女王も雲楼長も狂っていると思います。

同僚が捨担の荷物を整理している時に捨担が最期に持っていた荷物の中身が落ちてしまい、その服の背に悦と書いてあるのを見つけ、捨担が昔、悦に作ってあげると約束していた服なのだと気付き、服を手にしながら「捨担 あのバカ 俺なんかのために こんな 溢れんばかりの想い 贈ってくれるなんて」と涙を流します。ここでもやはり捨担の想いに涙が流れます。
その悦の様子を見て悠真は「話しておきたいことがある」と悦に言います。
ここで捨担の死の真相、女王と雲楼長の謀のことを悦に告げたのでしょう。

 

翌朝、悦を迎えに来た女王のところへ、捨担が贈ってくれた服を来て、剣と王の服を手に持った悦が現れます。王の服を女王の前で下に落とし、お返しします、これが私の気持ちですと女王に言います。
怒り「この場でお前を殺してやってもよいのだぞ」と言う女王ですが、悦は冷静に「そんな風に脅したのですか 捨担のことも?」と言います。
捨担のことをなんとも思っていない女王は捨担を「取るに足らぬ者」と言い、悦が捨担を殺されて怒っていることや捨担が悦にとってどれだけ大切な存在だったのか等ということを全く理解しません。
女王は悦にお腹の中には悦の子供がいることを告げ、だから自分を殺せないだろう、これが運命なのだと言い、これで悦は自分に従うはずだと、にんまりします。
「悦は我がもの」そうならないのは「許さない」と、あくまでも女王の自分が思い通りにならないものはないんだという姿勢で迫りますが、捨担を失った悦には殺すという脅しさえ通用しません。
元々悦は女王に恋愛感情などなく、捨担と生き残るために、女王の機嫌を損ねて殺されないように女王に対してうまく振る舞ったにすぎず、女王が悦を王宮入りさせるために捨担を死に追いやったとわかった今では、女王には憎しみしかないでしょう。

 

悦の気持ちを全く理解できず、あくまで権力を振りかざして言う事を聞かせようとする女王の振る舞いは滑稽です。権力があっても人の心までは思い通りにできないんですよという典型的なシチュエーションですね。
最期にまた「まだ遅くない」と言って殺すと脅していうことを聞かせようとする女王には、悦にとって死が何の脅しにもならないことがわからないのが笑えます。
「私の運命が貴女の手に握られているというならばその運命を終わらせるお手伝いをしましょう」と、突きつけられた剣を自ら腹に刺し、悦は絶命します。

この時、女王が懐妊していなければ悦は女王を殺すつもりだったのかもしれません。が、殺すの優先ではなく、言いたいことを言ってからにしたかったんでしょうね。ただすぐに殺しちゃったんじゃ気が済まなかったんでしょうね。それにしては丁寧な言葉遣いを崩しませんでしたが。もっと暴言はいちゃってもいいのにね。
どうせ悦は死ぬつもりでいたでしょうから。

 

雲楼長がやってきて、女王が、死んだ悦の体を抱えているのを発見します。
女王は雲楼長に、過去に自分が殺してきた者たちの亡霊がいつも傍にいて心が安らぐことがなかったけど、これからは自分が殺した者である悦がずっと傍にいてくれるはずだ、だから自分が殺した亡霊が傍にいるのは呪いではなく祝福なのだと言います。最初、ここら辺の女王のセリフの意味がよくわかりませんでしたが、たぶんこういう意味だったんだろうと思います。
最初は少しおかしくなったかのような女王でしたが、雲楼長が、真が兵を連れて雲楼に向かっているから早く逃げましょうと言うとしっかりして、ここに残り、真たちを抹殺し、我が弱みとなりうるあらゆるものをひとつ残らず取り除け、あの日の証左となる何者をも残さず、と雲楼長に命令し、女王は逃げます。
あの日の証左となる雲楼長に死ねと命じる女王。女王にとってもはや大切なのは自分自身とお腹の子のみ。
いやーほんとに酷い人です、女王は。女王の想いが踏みにじられても、それまで女王の我がままな振る舞いを見たら、全くかわいそうに感じられません。

 

それに比べると多少人を思いやる心を残していた雲楼長の方は、こんな人でなしの女王に惚れてしまって、大変な人生を歩むことになって、最期まで女王に振り回されて、かわいそうだなという部分はあります。
こんな女王でも彼は最期まで、女王を想う気持ちを無くしませんでした。
雲楼長は真たちを迎え、真の目の前で自分の喉をナイフで切って絶命し、真たちは雲楼に閉じ込められたまま火をつけられました。雲楼長は、これでずっと女王の傍にいられると思いながら死んでいきます。
雲楼長にとっても、このまま女王に酷い扱いを受けながら、悪事の片棒を担がされ人殺しをさせられ続けるよりは、ここで終わりにできてよかったんじゃないでしょうか。それでも彼は本当に女王の傍に亡霊として居続けるんでしょうが。

雲楼は燃えますが、おそらくほとんどの従業員は逃げることができたと思います。悠真が「今日で雲楼は閉鎖し、我らは解散する。今後はここでのことはすべて忘れ、皆と同じ平凡な人生を送るように」と皆に告げます。
悦や捨担と仲の良かった同僚たちは逃げる場面でもこの後も出てこず、どうなったのかわかりませんが、いい人たちだった彼らは幸せに暮らせたと思いたいです。

 

この時、相当な数の舟が必要だったと想うけど、どうやって手配したんだろう?とちょっと疑問に思いましたが、真たちが閉じ込められて殺されたなら、その舟を使えたのかもしれないし、真たちは雲楼の者を皆殺しにしようとしてたわけじゃないので、従業員たちは殺される心配はあまりなかっただろうから、火からさえ逃げれば急ぐ必要もないのか、と思いました。

女王は悦の血の染みた王の服を握りしめながら舟で逃げます。
最期に悦と対峙した時、悦なしの人生など生きられないと言ってましたが、女王にとって女性として愛する男の存在よりも女王という権力の方が優先順位が高いので、この人は結局、悦なしで生きられないなんてことはないのです。したたかにちゃんと逃げおおせ、王子が生まれたようです。また雲楼を作ろうとしてるようで、雲で館を建てろと大工に命じできないやつは首をはねるという噂がささやかれています。

捨担に膝枕されている悦が目を覚まします。「どのようなことをお望みですか 娘を呼びましょうか それとも男がよろしいですか?」と悦がふざけて言い、捨担と一緒に笑い転げます。

 

このセリフ、雲楼で客を迎えた時の決まり文句っぽく冒頭にでてきますが、娘をってのは女性相手にも女が相手をすることがあったんでしょうか。けれどもそこについては冒頭にこのセリフで出てくるのみで、女性従業員は料理担当の子しか話の中では出てこなかったし、よくわかりません。
他にも、蓮が言っていた、上り詰めて富と権力を手にするということとか、捨担が真に、我が風月になれば我の富も権力も自由に使えると言ってたこととか、その辺りのルールがちょっとしか出てこないので、いまいちわかりませんでした。客に花冠をもらって風月にしてもらうとその客の財産を使えたんでしょうか。とはいえ、自由に雲楼の外には出られず、逃げ出したら死罪となっていた風月にとって、そんなのは幻の富と権力にすぎないと思います。

悦「行こ」
悦は捨担に手を出します。
捨担「ん?行くってどこへ?」
悦「どこまでも」
捨担「おい 悦」
悦「ん?」
捨担「何だよこれ 人がせーかく縫ってやったのに 穴ぼこなんかあけちゃって」
悦「あのなあ 穴だったら俺の体にもあいたの!そっちはどうでもいいのかよ?」
捨担「あったりまえだろ!」

悦と捨担は手をつなぎ、悦は捨担に贈られた服を来ていて、服の背には剣で空いた穴が見えます。

捨担「悦さまぁ〜 もう一着縫う代わりに一曲所望してもよろしいですかー?」
悦「勿論でございます すべては捨担様のお心のままに〜」

捨担の手を引きながら悦が歌います。たぶん何度か作中にでてきた風月主の歌です。
二人並んで肩を組んで歩き、人混みの中に消えていきます。

この後、街の人が女王の噂話をして、それを船頭をしている悠真が聞いて歌をうたうシーンで物語は終わります。

 

悦の着ている服に悦が死んだ時に剣で空いた穴があり、そのことを二人が話していることから、昔の悦と捨担の回想ではなく、死後、二人が再会したのだというのがわかります。二人は死んでしまいましたが、死後ちゃんと二人がまた一緒になれたんだというのが、読者の想像ではなく、ちゃんと描かれているのがよかったです。死後でも二人が一緒になれてほんとうによかった。本当のハッピーエンドではないとしても、現世では悲劇に終わった二人が死後一緒にいられる姿をちゃんと見れたのは救いになります。
そしてもちろん、悦は死んで女王の傍になんていないのです。

彼らのいろいろな状況からして、現世で二人一緒に暮らし続けるのは難しかったでしょう。
雲楼に拾われなければ女王に目をつけられなかっただろうけど、子供が二人で生きていくのは難しい世の中だっただろうし、雲楼に来たなら、二人とも見た目がいいから、気に入らない風月をどんどん殺していた女王にはいずれ目をつけられてしまっただろうし、そうすれば同じ結末ではなくても、いずれにせよ二人ずっと一緒にいられるのは難しかっただろうと思います。

ただ経過年数とかちょっと、ん?と疑問に思う部分があります。悦も捨担もはっきり何歳とでてきませんが、雲楼に来たのは3年前、あの日の事件があったのは今から十数年前というセリフは出てきます。とすると10年くらい二人で物乞い生活で生き延びてきて、毎回じゃないにしてもずっと捨担は男娼のようなことをしてたのか・・・と思うと胸が痛い。

どちらか片方だけが生き残って生きていくのは悲しすぎるし、それなら捨担が死んですぐに悦も後を追う結末は、これでよかったんだと思えます。
今や何の憂いもなく、誰にも邪魔されず、二人楽しく一緒にいられる世界になったわけで、死んでよかったというのは悲しいけど、それでも二人一緒にいられるようになって、ほんとうによかったと、最期のちょっとだけのシーンですが、救いがあってよかったです。捨担の想いが泣けてしょうがなかったので、幸せな捨担のエンディングを見れてほんとうによかった。