漫画「Heaven? ヘブン」佐々木倫子 感想

 
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フレンチレストラン「ロワン ディシー」(この世の果て)で巻き起こる人間模様が、コミカルに描かれるお話。
愛想のないレストランの給仕スタッフ、伊賀観(いが かん)が、これからフレンチレストランを開くというオーナー黒須仮名子(くろす かなこ)にスタッフとしてスカウトされるところから始まる。
完結。コミックス全6巻。

テレビドラマ化もされた作品、原作です。

以下、ネタバレありなので、ご承知の上。

 

伊賀はフレンチレストランで給仕スタッフ(ウェイター)を勤めて3年だったが、ほとんど無表情な愛想の無さから、笑顔をとヤクザに言われてもできず、「このような場面で笑えません」と言って相手を怒らせてしまい、スタッフにも怒られ「サービスマンに向いてない、辞めちまえ」と言われてしまう。

黒須は近々オープン予定のフレンチレストランのオーナーで、視察のために他店をハシゴしていた。
そして伊賀がヤクザともめていた時の様子を見て、ヤクザに対する毅然とした態度、客に媚びない誇りの高さを褒め、「笑いたくない時に笑う必要なんかない、レストランで一番大事なことは客との距離感、スタッフに必要なのはオリジナリティ、あなたはいいサービスマンになる」と言って、店の地図と電話番号を書いた紙を伊賀に渡して、今晩中に電話をくれとスカウトする。

伊賀は言われた通り、翌日、黒須のオープン予定のレストランに向かうが、道に迷って墓場に着いてしまう。墓場の横の一面のボタンの花の先に明かりが見え、ちょうちんを持った黒服の男性と店のスタッフ達が並んで立っており、「迷いましたね?私たちも迷ったんですよ」と言われる。

 

幻想的な光景に「向こう岸に渡ったら・・死ぬ」と思って引き返そうとするが、臨死体験じゃないよと言われて引き止められる。

「ロワン ディシー」(この世の果て)という名のこのフレンチレストランは、どの駅からも15分、繁華街も遠く、街灯がなくて道も暗い、窓からお墓が見える、とかなり立地が悪い場所にあり、他のスタッフ達もみんなオーナーの地図がわかりにくく、道に迷ったらしい。

そして店内はまだ雑然としていて片付いていない様子なのだが、4日後にオープンというDMを既に送ってしまったというオーナーの無茶な行動のせいで、この後、オープンに向けて伊賀を始めスタッフ達は、てんやわんやの大忙しの日々を送る。

オーナーの黒須は、2巻の14話で明かされるまで謎のままだが、実はミステリー作家。
といっても過去に売れた作品が1つあるだけのあまり売れない作家。
そして性格は、傍若無人、自己中な人で、店のスタッフたちをいろいろと振り回す。

「レストランで一番大切な事は何か」というスタッフ達をスカウトした時に言った事がスタッフそれぞれで違っていた。伊賀には距離感だったが、オープン前の準備時には「酒がたくさん飲めること」、そして他のスタッフには、味、経営、非日常、快適な空間など。

 

駅から遠いこの店を借りたのも、オープン前はボタンの花がきれいだったからと言っているが(ボタンが咲くのは1ヶ月だけだと皆につっこまれる)、最終話近くで実はオーナーの住むマンションに近いからだとわかる。

そんな感じで、彼女が今までレストランで客として感じていた、これが不満、こうしたいを反映させようとしたのがこのロワンディシーで、黒須はガッツリ経営をしてお金を稼ごうという意図ではなく、自分の好き勝手できる店をやりたいと思っている。

そして自分勝手な性格なので、いつも好き勝手に振る舞っている。

店に出るスタッフは、伊賀以外、誰もフレンチレストランの経験がないとわかる。
店長の堤でさえ、牛丼屋や中華店での店長経験しかない等、オーナーの人選が非難される。
ちなみに、黒須は伊賀以外にも20人ほどに声をかけたが、電話してきたのは伊賀だけだったらしい。

 

保健所の検査日にトイレができておらず、検査はまた後日=オープン予定日に間に合わない、事になりそうだったが、急遽、隣の「やすらぎ会館」という葬式等をする施設のトイレを借りる事にして凌ぐ。

オープニングは着席だと思っていたら、立食で、DM500通のうち300人くらいがくるとして、食材や食器類が足りないということが前日に発覚。
結局、招待客はオーナーの知り合いだから、十分な事ができなくても驚かれない=テキトーでいいんだ!ということになり、食器類は近所の店等に借りることになって、なんとかオープン日を迎える。

オープン日当日になって、エアコンが効いてない事に気付く。
4月30日で夏ではないが、そこそこ暑い。
そして、PM3〜9時の予定が、なぜかちっとも客が来ない。

 

店の場所がわからないと花屋から電報が来たことで、DMに電話番号が書いてないことがわかる(道に迷っても連絡できない)。
そして、DMの日付が4月31日とありえない日付になっていたのが一番の原因とわかり、オーナーが直接知り合いに電話をかけて呼び、なんとか人が集まり、エアコンはブレーカーが別についていた事に気付いて復活し、なんとか初日を終える。

オープンして1ヶ月経ち、客があまり来ない。
シェフは弱気になると味が薄くなるという繊細で気の弱い人。
シェフの前の店で、金を持ち逃げした経理の人が現れ、シェフは修行時代から勤めた店、オーナーシェフになった店が何軒もつぶれてきているということが、みんなにバレる。
(オーナーは知っていた)

オーナーのマスコミのツテで、雑誌に紹介記事を書いてもらい、なんとか予約も入るようになり、客が来るようになる。客に「あれが伝説のシェフだぜ」等と言われ、気になって雑誌の記事を確認してみると、オーナーの友人の辛口エッセイストが、「料理は絶品だが行く先々のレストランをつぶす伝説のシェフ」としてオーナーの過去のレストランがつぶれる経歴を紹介していた事がわかる。

 

というところで、店がオープンする前後のゴタゴタは一段落し、これ以降は、店の客やスタッフのエピソード話がいろいろ展開される。

若い給仕スタッフの川合もなかなか個性的なキャラ。
仕事はできないが、愛想がよく、いろんなことを気にしない自由人で、伊賀とは真逆な性格だが、川合は伊賀を慕っている。

川合があまりに仕事ができないので、朝練として伊賀が特訓することになっても、試写会のチケットをもらったからと悪びれずに朝練を休む自由人。オーナーに怒られてもほとんど気にしない。
川合よりもとっても仕事のできる峰という人が、雇ってくれないかとやってきて、川合はクビになる危機がおとずれる。

オーナーにどちらを取るかは伊賀に任せると言われ、あまりの仕事の出来具合の違いに伊賀は峰をとることに決めたが、川合にクビを言い渡そうとして最初に「すまない川合くん」と言うと「いいんだよ、伊賀くん、僕気にしてないよ」「伊賀くんは悪くないよ、伊賀くんはいつだってちゃんとやってるもん」と言われてしまい、結局、川合にクビを伝えられずに、峰を断ることになった。(峰は察しが早く皆まで言わずに通じた)

 

川合は客にくどくどと店の文句を言われても途中で「あの僕もう行っていいですか?昨日遅刻したんで仕事たまってるんで」とニコッと言えちゃう図太い神経の人。
客には「そうハッキリ言われちゃしょうがないなあ」と言われて済んでいる。

ハッキリ「この店には彼が必要なんだー」っていうお涙頂戴な展開にはならないけど、なんとなーく、彼には彼の良さがあるというか、彼が役立つ場面もあるよね、たぶんって感じになっている。
でも、伊賀に怒られた(ほんとは怒ってたわけじゃなく忙しくて素っ気なかっただけ)時は、号泣していた。(コミカルな号泣だけど)

ある時、接客スタッフが川合しか店にいない時に、たくさんの予約が入り、電話機の所に伊賀、堤がいない時の電話対応の仕方が書いてあったにもかかわらず、客の電話番号を聞かないまま等、いまいちな予約の受け方をしてしまう。

 

山田様3名の予約が同じ時間に3組あり、同じグループからの予約なのでは?と疑われるが、当日、山田様3名グループが3組来たので、川合が受けた予約は正しかったことがわかりほっとする。
けれど、この日は雨で、最後の客が帰った時に残っていた傘が違う物で、傘の取り間違いが起こる。
しかもその傘は息子の形見だったという重い事情のある物だった。

連絡のとれる客には連絡するが、川合が電話番号を聞いていない客もあったため、全部の客に連絡はとれない。スタッフ全員で当日の様子を思い出し話し合いをしていると、傘の取り間違いが起こったのは、オーナーが転んで傘立てをひっくり返し、タグを付け間違えたからだと判明する。

数日後、違う傘を持ち帰った客が自ら傘を店に持ってきてくれた事で、無事解決。
その客の傘も、別れた妻にもらった傘で大事なものだった。

予約時に客の電話番号を聞くことの大切さを身にしみて理解する事になった。
けれど、川合がこれでできるスタッフに変わっていったりはしない。
(エピソードが描かれる順は、これより川合クビ危機の方が後)

 

山縣は、銀行を定年退職したソムリエ担当の人。
資格マニアでいろんな資格を取る事を生きがいにしている。
このレストランで働いているのもソムリエの資格を取るのに実務経験が5年必要だから。
が、伊賀(&堤)の実務経験が5年になった時に、ソムリエ試験を受けることになったエピソードの最後で、ソムリエ協会に入れば3年で受けられる事がわかるのだが。

伊賀は、大学受験の時、母が一緒に上京してきてディズニーランドに遊びに行き、チケットと間違えて伊賀の受験票を持っていってしまった事で、試験に遅刻し受験できず(遅刻しても受けられたかもしれなかったが伊賀は受けれないと思って諦めた)、その際に前のフレンチレストランのシェフと知り合って、そこに就職する事になったという過去がある。

 

伊賀の母は、オーナー黒須に性格が似ていて、自分勝手な人。
伊賀がいなくなって不便(パシリ等いろいろな自分の用事に使っていた)だと思って、伊賀を連れ戻そうと店にやってきて、オーナー黒須と対決する。
結局、母の扱いに長けた父が、「続きはまた今度ね」と、決着を「先延ばしにする」事で、母をかわして終わらせる。

そして、最後は前後編の2話で、急展開してレストランは移転することになる。
和風喫茶の店がロワンディシーのテナントに店を出したいと挨拶に来て、テナントの契約更新時に競合して、自分の所が勝つだろうという事で、移転先も紹介するからと言って、移転を勧めてくる。

 

オーナーは最初は自分の家に近いこの場所がいいからという事で移転に反対し、オーナー以外のスタッフは移転に乗り気だったが、後編になると両者の意見が反転する。
オーナーは自分が店の近くに引っ越せばいいんだと言って、移転に乗り気になり、スタッフ達はなぜか、意外と愛着があってと移転に反対に転じて、和風喫茶をやると言い出す。

オーナーの意見が変わったのには納得だけど、スタッフたちは後編になって急にって感じで、なぜなのかいまいち納得行きません。そして競合店の人達に対抗する感じで、オーナーは自分たちの方がいいという自論を展開するけど、最後は伊賀に決断を委ねて、伊賀が「オーナーはオーナーでありながら客であるという矛盾した存在でオーナー自身がそれに気づいた以上、この店に未来はない。この店の役目は終わりました」という。

するとその直後、店に雷が落ちて火事になり、オーナーが「ロワンディシー本日にて閉店」と宣言する。

 

ロワンディシーは、長崎の伊賀の実家に移転。
伊賀家は父が転勤で海外に行っていたため、空いていた。
そして黒須はオーナーではなくなるが、店に食事をしに来る。
2年後には伊賀の両親が戻ってきて、次は金沢に移転。
移転しても黒須は店によく食事しに来る。

そして移転を繰り返し、40年後。
バリのレストランにいる伊賀のところに、黒須が客としてくる。
伊賀「ここまで小説の取材ですか オーナー」
黒須「あなたが立派なサービスマンになったかどうか 見に来たのよ」
おしまい。

 


最後の急展開は、最初に読んだ時、とても寂しい感じがしました。
閉店ではなくて移転で場所を変えて続いてはいるんだけど、そこからは駆け足で、40年後になってしまい、伊賀と黒須はいつまでも同じような関係で、続いているっていうのは、素敵なようでいて、こんな急展開で進んで終わってしまうのはとても寂しいです。

こういう感じで、最後に駆け足で時が進んで終わるのっていつも寂しい感じがしてしまいます。

バリでの伊賀の絵は、第一話の1ページ目の男性の絵と一緒なので、作者さんは最初からこの最後を思い描いていたってことなんでしょうが、あまりに急展開すぎて悲しい。
第一話の1ページ目なんて、読み返すまで気付きませんでしたけど。
最初は山縣かなと思ってましたけど。

 

長崎に移転した時になぜ黒須はオーナーじゃなくなったのかとか、それ以降はもうたったの2ページで描かれてるので、全く説明はありません。40年後のバリは3ページ。
金沢までは期間も短いし同じスタッフ達がいる様子が描かれてますが、バリは伊賀と黒須のみ。
伊賀は山縣似の品のある初老の男性になっていて、黒須は顔は出てこないまま。
伊賀がそのレストランのオーナーなのかといったことも全くわからず、ただ再会しているだけ。
黒須と伊賀以外の人達も一切出てこないので、どうなったのか不明。

移転しないで、まだこれからも続くよって感じで終わってくれた方がよかったなと思いました。
最後のバリでの年取ってからの再会が描きたかったんだろうなっていうのと、そこに繋げるために移転の話を入れたのかなって感じがします。移転自体はたいした意味ない感じで描かれてるし。

 

それに最後の移転(閉店)エピソードですが、最後の方の店を移転するかどうするかのところは、もう何がなんだかわかんない感じになってるなと思いました。
スタッフが和風喫茶をやろうと言い出すのも急だし、なのに制服まで揃えちゃってるし。
特にシェフは急に和風喫茶なんて納得したのかっていうのが気になる。

オーナーは移転賛成になったはずなのに、競合店へのライバル意識でスタッフに加勢しちゃうし(これはオーナーの性格的にいつも通りだけど)、宇宙が背景になるようなすごい理論展開しちゃうし、それでいて本当は和風喫茶じゃヤダから伊賀に判断を委ねて、伊賀は店は終わりと宣言するという、話があっちこっちいくわけわからない展開です。

オーナーはまあいつもどおりかもしれないけど、スタッフたちがなぜ急に移転反対になったのかが、そこらへんの心情の変化が描かれずに急に変わっちゃったので、そこが一番納得できなかったです。

 

そしてこのお話に恋愛要素は全くありません。
でもそこは別にそれでいいかなと思います。

6巻に描き下ろしで「鱸石材店の休日」というのがありますが、これはロワンディシーの近所のお店で、ちょこちょこ登場していた鱸さんのタイトル通りの短いお話。
最後にロワンディシーに寄るところでいつもの面々がちょこっと出てくるけど、お店移転前の普通の日の話なので、その後の彼らが見れるとかではありません。

佐々木倫子さんの作品は、「動物のお医者さん」が大好きで、この「Heaven?」はすっごく面白い程ではなかったけど、佐々木倫子さんのコミカルセンスはわりと好きなので、それなりに面白いって感じでした。

試し読みはコチラ 全6巻