漫画「吸血鬼と愉快な仲間たち」漫画:羅川真里茂 原作:木原音瀬 感想

 

アメリカの中途半端な吸血鬼のアルベルト・アーヴィングは間違って、コウモリの姿のまま冷凍されて、お肉と一緒に日本に送られてきてしまう。
彼が日本で刑事の忽滑谷(ヌカリヤ)、エンバーマーの高塚暁(アキラ)に出会って起こるドタバタヒューマンドラマ。

連載中。既刊4巻。
マンガParkで2巻まで読んでの感想です。

2019年に4巻が出た後、続きが出てないようで今は休載中なのかな?
原作は小説で、それをコミカライズした作品。

以下、ネタバレありなので、ご承知の上。

 

 

 

アルが吸血鬼になって日本に来るまでの事情

吸血鬼というと、長く生きてて見た目は若いけど、実は数百歳、数千歳生きてるっていうイメージで、実際、見た目より年をとってるというキャラが多い気がしますが、この作品の主人公アルベルト・アーヴィング(アル)は、ほぼ見た目通りの若者です。

8年前に吸血鬼になったばかりで、当時21歳。
足しても29歳です。

「あ、まだなったばっかなんだ」っていうのにちょっと驚きました。

そして吸血鬼は人間にない能力を持っていて、結構万能、賢くて強い、というイメージも持ってるんですが、アルは、吸血鬼になった時のなり方のせいか、中途半端な吸血鬼で、能力が高いどころか、人間社会ですごく生きにくい、かわいそうな境遇なんです。

若気の至りで、車の中でしようとした相手の女の子が吸血鬼だったようで、血を吸われて意識が遠のく中、不良達に襲われて、完全に死ぬ前に彼女は逃走、アルは1週間苦しんだ後に死亡、葬儀のあとしばらくして吸血鬼になって墓から出てきました。

家に戻って両親や親友に生き返ったんだと説明しても、悪魔憑きだ、成仏してくれ等と言われて、銃を使って追い払われるほどで、信じてもらえませんでした。

身分証がないのでなかなか仕事に就けず、就けても低賃金な仕事ばかりで低所得者用住宅にも住めなくなってホームレスに。

 

 

半年ほど経った頃に、300年生きてる同族(吸血鬼)に会い、自分が普通の吸血鬼と違う事を知ります。

この物語に出てくる吸血鬼は、日光、にんにく、十字架はOK、銀の杭を心臓に打たれると死ぬけど、それ以外は不老不死。
どんなに切り刻まれても治るし、血を飲まなくても死にませんが、痛みや飢えの苦しみは感じます。

アルは、あるはずの牙がないため、噛み付いて血を吸うことができません。
また、昼はコウモリ、夜は人間に勝手に変身してしまい、自分で変身をコントロールできないのです。

それと吸血鬼になると髪と目の色はほぼ黒になるようですが、アルはダークブロンドの髪にグレーの目、元はブロンド&グリーン。

アルの会った同族は、アルのような中途半端な吸血鬼には会うのは初めてで、はっきりした原因はわからないけど、死ぬまでちゃんと血を吸われなかった事と、吸血鬼に変化してる途中でエンバーミングされた事が関係しているのかもしれないとのことでした。

相手が死ぬまで吸血すると吸血鬼になるそうですが、通常は、相手が死なない程度に吸血するだけで止めるらしく、アルの会った女の子が、成り立ての吸血鬼で加減がわからなかったのか何かで、当たった相手が悪かったようです。

吸血鬼は餌の奪い合いになってしまうので、群れて生活しないそうなので、同族の彼もすぐに去ってしまったのかな?

最後は精肉工場の近くの廃屋に住んで、屠殺した牛の血を舐めて生活していて、人間らしい生活はできてなかったけど、なんとか安定した生活をしていたところ、コウモリの時に間違って肉と一緒に冷凍されてしまい、日本の精肉工場に送られてしまいました。

そこでトイレのゴミ箱に捨てられたんですが、解凍され夜に人間になった時に警備員に見つかって警察に通報されて留置所に入れられてしまいます。

この物語の吸血鬼は、コウモリから人間に戻った時に都合よく服を着てたりしないので、人間に戻る時はいつも全裸です。

そのせいで、その後も変態扱いされたりエッチな誤解を受けたり、何かと困った事になります。

「映画撮影で来た俳優でロケ隊とはぐれた後、日本人の男に身ぐるみはがされてトイレに押し込まれた」と嘘の弁明をしますが、暗証番号の必要な工場になぜ入れたのかという事で信じてもらえず、取り調べが続くはずでしたが、朝になったらアルがいなくなってたため、警察は騒然とします。

なぜかコウモリが留置所にいたという事で証拠品扱いされますが、刑事のヌカリヤが写真をとってコウモリ本体は逃がすという事にして、コウモリ好きなヌカリヤの友人、高塚暁に癒やしのペットとしてあげるため、持ち帰ります。

こうして、アルは暁とヌカリヤに出会いました。

 

 

 

アルの吸血鬼としての状況

アルは直接、人間から血を吸えないため、屠殺の時に出る血か、牛肉、鶏レバー等の生肉をなめて、血を摂取しています。

でも、生肉で血って摂取できるかなぁ???って思いました。

レバーはまあ血抜きがちゃんとされてなかったら、残ってるかもしれないけど、生肉って血ついてる?

赤身肉には鉄分が多いみたいだから、そういう関係?

そこはだいぶ、えぇえ?と疑問に思ってしまいました。

変身をコントロールできず、時間で勝手に変身してしまう、しかも人間になる時は全裸となると、かなり生活しづらいだろうなぁと思います。

どっちかというと、昼は人間、夜にコウモリの方が生活しやすかっただろうね。

不死だけど痛みや苦しみは感じるから、場合によっては死んだ方がマシな状況にもなり得るよなぁ。

幸いアルはそうなってないけど、実験体にされちゃうとか、死ねないけど地獄の苦しみを延々と受けるって最悪だよね。

人間と寿命が違うから相手が先に死んでしまう苦しみなんかを描くというのはよくあるけど、生活苦になる吸血鬼って今まで読んだことなかったので、強いイメージを持ってる私にはちょっと驚きでした。

 

 

アルと暁とヌカリヤ

ヌカリヤに連れられて暁の家にきたものの、夜には人間になってしまうので、暁が仕事から帰ってくると全裸の外国人が家にいる事態になってしまい、自分がコウモリだと明かしても信じてもらえず、結局また留置所に逆戻り。

留置所では脱獄された全裸の外国人が戻ってきたよかったとなるけど、また昼になればコウモリしか残っていない事態に騒然。

変身を見た署員がいたけど信じてもらえず、またヌカリヤによって暁のところに連れて行かれます。

ここでアルが証明するために自分の変身場面を見ろと、暁&ヌカリヤに言って、一度では信じてもらえず、人間→コウモリ、コウモリ→人間の2回の変身を見てもらってやっと吸血鬼だと、なんとなくですがわかってもらえました。

ですが、事情はわかったけど自分が面倒を見る義理はないからと、暁はアルをアメリカに送り返そうとします。

アルは実家には戻れず、精肉工場も人間らしい生活をできていたわけじゃないので戻りたいわけではなく、嫌がるアルと、アメリカに帰れば言葉が通じるだけまだましだろうという暁とで言い合いになりますが、ヌカリヤが仲裁して、2週間だけ居候させてもらえることになります。

暁はコウモリ好きで、コウモリのアルには優しい顔を見せていたのに、人間のアルには(アルだとわかってからのコウモリにも)、厳しい態度を見せる暁の事を理不尽に感じたり、「悪魔」と言って反発したりします。

暁は、人付き合いが苦手なようで、職場の人とも必要最低限な会話しかせず、ヌカリヤ以外の人と親しく話す相手がいません。

そのせいもあって、暁はアルの面倒を見るのを嫌がりますが、突然現れた知り合いでもなんでもない外国人の面倒をなんで自分がみなきゃいけないんだっていうのは、すごく当然な反応でもあります。

徐々に明かされるアルの吸血鬼になってからの状況がかわいそうなので、助けてあげてって思っちゃうんですけど。

そんな感じで、ヌカリヤに言われて仕方なく、最初はお互いいがみ合ってる感じで同居がはじまりますが、アルの吸血鬼としての大変さやその心情を暁が知り、暁の優しさをアルが知っていくうちに、徐々にお互いに情が湧いていきます。

ヌカリヤは、アルや暁と一緒の時は、ケンカになってしまう彼らの間に入る緩衝材の役目を果たしていて、柔らかい感じの人なんですが、刑事としてはスタンドプレーをする、できるけどクセのある厄介者なようです。

 

 

連続殺人事件

アル達の近所で連続殺人事件が起こっていて、アルは暁とケンカして一人で公園のベンチに座っている時に、この殺人事件の犯人に出会ってしまい、背中や首を刺されて重症を負ってしまいます。

普通の人なら死んでしまう程の重症で、吸血鬼のアルはもちろん死にませんが、回復にはエネルギーが必要で、ずっと生肉ばかりで血の足りないアルは傷がふさがってもなかなか元気になりません。

見かねた暁が腕を切ってアルに血を飲ませます。

アルは人間の血を飲むのは初めてで、暁の血はとてもおいしく、夢中になって吸いすぎてしまい、暁は倒れて救急車を呼ぶ事態になってしまいます。

暁の入院先で、殺人事件の捜査で忙しく少しご無沙汰だったヌカリヤに会い、ヌカリヤはアルが刺されて重症を負ったことを知って、連続殺人事件の犯人と同一犯では?と推測します。

鼻の効くアルが連続殺人事件の捜査に協力する事になり、血の匂いをたどって犯人の住居を突き止めますが、証拠がないため動けません。

アルの協力はヌカリヤの独断で、ケガが治っていて被害者だと明かせないアルの目撃証言も、コウモリのアルが匂いで居場所を突き止めたことも、公にはできないためです。

人の役に立てる事に喜びを感じたアルが、更に役立とうとして、コウモリの姿で犯人の部屋に入り込みますが、そのまま閉じ込められて捕まり、犯人の楽しみのために切り刻まれて、無残な姿になってベランダから落とされてしまいます。

あまりの痛みのためにアルは朦朧として意識を失います。

犯人を見張っていた刑事によってヌカリヤに届けられ、暁の元に戻りますが、前回よりもグチャグチャにされた酷い状態で、なかなか傷がふさがりません。

暁はまたアルに血をあげて入院しますが、それでもアルは傷はふさがるものの動けるようにならず、暁はエンバーミングで廃棄される血液をアルに飲ませ、それによってアルは全快しました。

アルは自分を助けてくれた優しい暁に巡り会えたことに感謝します。

犯人は、コウモリの動物虐待という事で署に連れて行き、その間に犯人の部屋の火災報知器の誤作動という事で中に入って証拠を見つけるという、多少強引な方法で逮捕に至りました。

アルの証言のおかげで、証拠が部屋にあるという確証があってのヌクリヤの強引な行動でした。

アルは死なないけど痛みは感じるという描写は何度も出てきて、この殺人事件絡みでは2度も死ぬような傷を負い、特に2回めの方は、グロい描写はないものの、かなり酷い状態だったと思うので、かわいそうです。

この殺人事件を通じて、ヌクリヤは優しいだけの穏やかな人じゃないよーっていうのがわかります。

それと本当はアルは暁の血がすごくおいしかったんですが、暁が倒れてしまったので、また同じことをしないよう、自分を戒めるために、「暁の血はまずい」と嘘をついていました。

 

 

エンバーマー

暁はエンバーマー(エンバーミングをする人)です。

エンバーミングというのは、遺体の滅菌、血抜き、防腐処理、欠損の修復等をして、見た目をきれいにして、衛生的にも安全な状態にする技術の事です。

死に化粧よりもっと遺体に手を入れて、病で痩せこけた人の顔をふっくらさせたり、事故で損傷した部位をきれいに見えるようにしたり等するようです。

私は別のマンガで数年前にこのエンバーミングの事を初めて知りました。

アメリカだとわりとよく利用されてるそうですが(そのマンガによると)、日本だとほとんど聞かないし、需要もあまりないんじゃないかなぁという気がします。

最初知った時は、すぐに火葬(土葬)してしまうのに、なぜそこまで手をかけるの?って思いました。

血抜きとか衛生的に気をつけるとか、金額は知りませんが、結構お金かかりそうだなぁとも思ったし。

でも、きれいな死に顔を見て、遺族がきちんとお別れできるように、という意義があるようで、エンバーミングを依頼する人たちがそれで納得できるなら、いいんじゃないかとは思います。

アメリカだと映画やドラマで見る葬儀で、遺体がみんなに見える形で置かれているのをよく見るので、需要があるのかなとも思います。

でも日本だと葬儀の時にあまり遺体を見せないですよね。
日本にエンバーマーってどのくらいいるんでしょう。

暁はアメリカに行って、エンバーミングを学んだので、英語が話せます。
でも、英語は好きじゃないようで、アルにも日本語を勉強させ、自分には英語禁止、日本語で話すように強制しました。

なぜ暁は人嫌いなのか、なぜエンバーマーになったのか、なぜ英語が嫌いなのか等、暁の事情はまだまだ謎ですが、小説の先の方の話ではかなりシリアスな事情が出てくるようです。

暁がエンバーマーだとわかった時に、アルは廃棄する血をくれと頼むんですが、仕事にプライドを持ってる暁はそれを拒否します。

いろいろあって、エンバーミングの手伝いをしたら廃棄する血を少しもらえるという事になるんですが、暁は対価というより、それを人間からもらってるって事を忘れないでほしくて、いわば感謝の気持ちをもってほしくて、手伝ったらという事にしてたようです。

暁にはエンバーミングの助手がいて、制度として1年間だけ助手として就けるようです。

その助手にアルが全裸でいる時に会ってしまい、ごまかしきれずに暁はゲイ、もしくはそういう趣味があると誤解されてしまいました。

 

まとめの感想

読む前に、マンガParkの感想を読んで、もっとコミカル色の強い作品なのかなと思ってましたが、思ったよりはシリアス寄りでした。

もっとお気楽な感じの吸血鬼なのかなと思ったら、結構シリアスに吸血鬼でいる事に絶望に近い感覚を持ってるし、痛みに苦しむシーンが何度も出てきます。

それとコウモリが、マンガっぽいかわいいキャラクターじゃなく、リアルに近い感じの絵で、それはそれでいいと思うんですが、コウモリとかねずみの顔は好きではないので、一歩引いてかわいいとは思うけど、本気で愛でたいとは思えませんでした。

絵柄は好みの範囲だと思いますが、主要人物のキャラの絵は、ドンピシャ好みなキャラは誰もいませんでした。

アルと暁は、2巻終了時点では、お互い好意的に思うようになってきた感じですが、それは友情だったり、人間的に好ましいという感じです。

ただアルは素直に暁が好きって感じですが、暁はストレートに表現してない感じ。

ですが、4巻ではどうやら恋愛感情になってるっぽいです。
電子書籍サイトで情報を見ても、ジャンルはBLとはなってないんですが、BL要素もあるみたいですね。

ちゃんと二人が好意的になるまでの過程が描かれてるし、納得いってますが、最初あんなにお互い不満に思ってたのに、よくそんなに好意的になったよねーとその変化に驚きます。

最初から、この二人が仲良くなるんだろうなってのはわかってましたけどね。

原作は小説で5巻まで出てるようですが、出版社の都合でその続きは同人誌で出ているらしい。

マンガが4巻まで出たのが既に2年前で、小説の内容に追いついてるわけでもないのに続きは出ていません。

マンガで続きが出るといいなぁ。

いずれ続きを読みたいなとは思っています。

 

 

 

 

小説 1〜5巻