漫画「サラソウジュ」邑咲奇 感想

 

お金持ちお嬢様が通う高校に転入した田舎育ちの女の子が、家庭とアイデンティティに問題をかかえた子に出会って、その子の支えになる存在になっていく恋物語。

多少ツッコミどころもあったけど、いいお話でした。
絵柄がわりと好みなので読んでみたって感じだったけど、面白かったです。
主人公の女の子がポジティブで素直なイイ子なところが読んでて気持ちいいです。

ピッコマにて。コミック全2巻。完結。

以下、ネタバレありなので、ご承知の上。

 

 

 

ストーリー

主人公は、吉井炎子(よしい ほむらこ)。

田舎の地主で農家の吉井家は、1人の実子、6人の養子を育てている大家族で、炎子も施設から引き取られて養子になった一人。

成績優秀で田舎の高校にいるのはもったいないと先生に言われ、両親が東京の高校に行かせてくれることになった。

ママさんの若い頃の憧れの学校でもあったと聞いて、ママさんの夢を叶えるためと思って炎子は、お嬢様学校の私立篁(たかむら)女学院に編入することに決める(無事編入試験に合格)。

全寮制の学校で、上京して一人で寮に行った初日、超美人な女の子が塀を飛び越えてくる所にぶつかって足蹴りされる。

寮に行くと、建物や設備がオンボロで、全寮制とは名ばかりで誰も寮に入っていないので寮生は炎子だけだと言う。
学校に行くと、いかにもなお金持ちのお嬢様っぽい子たちばかり。

そして昨日、ぶつかった子は、篁沙々羅(ささら)で、篁女学院を運営する篁グループの令嬢とわかる。
そのため、クラスの子たちは、沙々羅のことを沙々羅様と呼んで、うやうやしく特別扱いしている。

また沙々羅には双子の兄がいたが中等部の時に事故で亡くなっており、それ以来、沙々羅はふさぎ込みがちで誰とも深く付き合わず無口になったという。

それと満月の夜、礼拝堂に仮面の貴公子が現れて操を奪われるから、そこには近づかない方がいいと、巨乳のクラスメイト、南かりんが教えてくれる。

かりんと話していて、自分は養子だと言うと、クラスメイト達から、「血のつながらない子供なんて名門では考えられない」「偽物家族」等と悪口を言われるが、「愛をくれる人に血の繋がりなんて関係ない 私は愛されて育った」と炎子は反論する。

 

 

寮の部屋から人が倒れているのを見つけ行ってみると、沙々羅だった。

炎子が大丈夫か等としつこく聞いていると「ほっといてくれ 大丈夫だから お前に関係ない 早く消えろ」と口汚く言われてしまうが、沙々羅が気絶してしまったので、寮の談話室までなんとか連れて行く。

沙々羅が汗をかいていたのでふこうとするが、カツラがとれ、ブラジャー+パッドもとれて、沙々羅は男だとわかる。

そこへ寮母さんが帰ってくるが、寮に男を連れ込んだら即退学と聞いていたので、バレたらまずいと焦り、扉を開けられないようにしようとするものの、失敗して開けられてしまうが、振り返ると沙々羅は消えていた。

沙々羅は母親と会った後に、よくパニック障害の発作をおこすらしく、炎子が見つけたのも発作を起こして自分の部屋に着く前に倒れてしまったところだった。

沙々羅は、父や母との関係に問題を抱えているらしい。

沙々羅が忘れていったブラジャーや胸パッドを袋に入れて炎子が渡しているところを同級生達に見られ、沙々羅にプレゼントを渡して取り入ろうとしていると誤解され、炎子は一気に孤立してしまう。

炎子の長兄の賢兄は、今は家を出て東京に住んでいるが、体は男だけど心は女の性同一性障害だった。

炎子は沙々羅の寂しそうな横顔に賢兄を重ねてみて、何か悩んでいることがあれば話を聞く等と話しかけるが、沙々羅には「取り入ろうとしても無駄だ」と冷たい態度をとられる。

その様子をまた遠くから同級生に見られて更に反感を買ってしまい、炎子は騙されて人のあまり通らない教室に閉じ込められてしまう。

 

 

夜になり、仮面の貴公子の噂通りのHな声が聞こえてくる。

誰かが通りかかる音が聞こえて「開けてください」と炎子は叫ぶ。

外には仮面の貴公子がいて、人がいる事に驚いて思わず出した声で、沙々羅の声だとバレてしまう。(炎子には姿は見えていない)


沙々羅は「朝になれば誰かが来るだろう」と言って去ろうとする。

沙々羅「助けてほしい時に助けてもらえると思うな」

炎子 「助けてほしい時に助けてって言うことはすごく大事なことだって 賢兄が」

沙々羅「俺の弱みをお前は握っているんだから、ここを開けなきゃバラすぞって言えばいい」

炎子 「私は弱みなんて握ってない
誰にだって言われたくないこと
内緒にしたいことはある
そんなの弱みじゃない
知られたくないことを知っちゃってごめんね
でも私に弱みを握られているとか
篁さんがそんなふうに思うことないよ
あなたの秘密と引き換えにできるものなんてない」

秘密ってとても苦しいんだよね
そばにいて何もできないのも 辛い

「ふん バカな奴」と言いながら鍵を開けて沙々羅は去っていった。

その後も炎子はめげずにクラスメイトに話しかけたり一緒に行動しようとするが、無視され避けられ続ける。

体育の授業中に見学している沙々羅にボールがぶつかりそうになったところを炎子が助けようとして、水たまりで転んでしまい、水がはねて沙々羅も炎子も濡れてしまい、二人で更衣室に行く。

 

 

そこで沙々羅は本当は、双子の樹の方だとわかる。

「あせらずにちょっとずつ理解を深めていけばいつかきっとみんなと友達になれるはず」と言うポジティブな炎子に、樹は「お前って全然かわいそうな奴じゃないよな」と言う。

養子だということで「かわいそう」と以前から友達に言われることがあった炎子は「そう、私って全然かわいそうじゃないの!」と喜んで答え、その様子に樹は思わず笑ってしまう。

炎子は初めて樹の笑顔を見る。

そこへクラスメイトが沙々羅の様子を見に来たため、炎子は慌てて沙々羅をロッカーに押し込む。
(ここは炎子が沙々羅をぶん投げる感じでロッカーに放り込んでいておもしろい)

「みんなとは育った環境がちょっと違うかもしれないけど仲良くしたい 友達になりたい」と言う炎子にクラスメイト達は「あなたみたいなメリットのない人と友だちになったって意味ない 仲良しごっこは必要ない だからあなたのことも必要ない」と言われてしまう。

炎子は今までのように「大丈夫 笑える」と思おうとしたが、今は家族もいない、私ひとりだと思うと「ひとりは嫌だ」と心が折れそうになる。

そこへ沙々羅の格好に着替えた樹がロッカーから出てきて炎子の手をつかみ、クラスメイト達に「私は友達にメリットなんて求めない だからあなた達と仲良くしようと思わない」と言って、炎子を連れて立ち去る。

二人で資料室。
炎子は寂しかったから、樹が優しくて嬉しくて、泣いてしまう。

樹は炎子の涙を手でぬぐってやりながら「おれが友達になってやろうか」と思わず言ってしまう。

炎子は「ほんと!」と言って友達ができたらやりたかったことをツラツラ並べあげ、一気に元気になる。

 

 

次の日、樹は炎子を誘ってお昼を一緒に食べる。

樹は沙々羅でいることが息苦しく、心が限界になってきていた。

樹は自分の正体を知られている炎子の前でだけは、息ができる気がして、真っ直ぐに接してくる炎子が樹にとってどんどん大切な存在になっていった。

樹は母親の体調が思わしくないと呼び出され、母親に「死んだのが沙々羅じゃなくて樹でよかった」と言われる。

母親に会ってきた帰りに沈んだ気持ちになり、寮の外から炎子らしき人影を見ていると、炎子が樹に気付き、実家から送られてきたパウンドケーキがあるから一緒に部屋でお茶しないかと誘われ、炎子の部屋へ行く。

炎子の部屋で談笑しているうちに樹は眠ってしまったらしく、翌朝、炎子に起こされ、いつも不眠症気味だったのに熟睡してしまったことに自分でも驚く。

炎子と一緒にいることで心の安らぎを得られていると感じて、樹は炎子の隣の部屋に自分の部屋を用意させる。

休日、樹は炎子の部屋で一緒に過ごしていると、炎子に賢兄から明日仕事場に遊びにくるよう連絡がくる。

喜ぶ炎子に、賢兄と炎子に血の繋がりがないため、樹は嫉妬を感じてイライラしてしまう。

樹は、仮面の貴公子として、満月の夜に女子生徒の下駄箱に招待状を入れて礼拝堂に呼び出し、Hをすることで「おれは男だ」と確認して、自分を殺して生きていく気持ちを紛らわしていた。

けれどもそれでも根本的な解決にはならず、今、本当の自分でいられるのは炎子の前でだけだと感じていた。

 

 

そして翌日、賢兄に会いに行く炎子に樹は一緒についていく。

賢兄は成人して性別適合手術を受けていた。
東京でスカウトされて今は女性としてモデルの仕事をしていて、職場でも元は男だということを隠していなかった。

賢兄を見て樹は驚くが、性同一性障害の兄だということを知って、今まで炎子が樹が女装していることを知っても驚かなかったことや、今までの炎子の言動が腑に落ちる。

けれど、樹のことも男としてみていたわけじゃなく、賢兄と同じで中身は女だと思っていたのかと思い、途中で炎子を置いて帰ってしまう。

そしてお付きの佐久間(秘書みたいな執事みたいな人)に、炎子の隣の寮の部屋も引き上げるように言う。

佐久間は退去するなら寮母に挨拶にいくようにと菓子折りを樹に渡し、見られたくない私物は自分で運ぶように言う。

そして炎子に電話して樹は今寮にいると伝え、二人が会うように画策する。

炎子は賢兄にはまた今度と謝り、すぐに寮に帰ってくる。
樹の部屋の前で樹を傷つけたならごめんと謝る。

 

 


樹「何も知らないくせに」

炎子「わからないからわかりたいの
篁さんのことちゃんと教えて
どんな篁さんでも 私受け入れるから」

樹「じゃあ教えてやるよ」

と言ってドアを開け、樹は炎子にキスする。

樹「おれは男だ」

炎子「あ うん 知ってるよ」

樹「そうじゃなくて おれは心も男なんだ」

樹「賢兄と一緒じゃなくて残念だったな
おれが女だから友だちになったんだろ」

炎子「違うよ
男か女かなんてそんなの関係ない
最初は賢兄と同じなのかなって思ったことはあるけど
何度も助けてくれて
私と友達になってくれたのは篁さんだから」

樹「おれは男であることが重要なんだ
おれは男であることでしか自分を証明できないんだ
関係ないなんて
おれには思えない
どうしても」

おかしいよな
普段女の格好しておいて
お前にとっては意味不明だろうな
救いようもないほど
もうぐちゃぐちゃだ
いや 樹にははじめから
救いなんてないんだ

炎子「だったら私の前では男の子でいていいよ
どんな外見をしていても
あなたは男の子だってこと
私ちゃんと知ってるから」

「どうして何も知らないままで、そんな簡単におれを受け入れられるんだ」と樹は言うが、炎子は事情があるのは私にだってわかってるけど、根掘り葉掘り聞くよりも篁さんに寄り添いたい、だから友達はやめないと言う。

「そんな顔しないで 樹くん」と樹という名前で呼ばれて、炎子が男である「篁 樹」を知っててくれるなら、もうそれでいいじゃないか、と樹は思う。

そして仮面の貴公子なんてあんなバカなことはもうやめよう、炎子に知られていない今ならなかったことにできる、と思った直後、樹の部屋にあった仮面の貴公子の招待状が風で飛ばされて炎子に見られてしまう。

炎子はそれを樹(沙々羅)に送られたカードだと思ったので、その場はごまかせた。

 

 

炎子は翌日、クラスメイトのかりんに仮面の貴公子について聞く。

仮面の貴公子がHの時に「おれは男だ」と言うのを聞いた人が多い事、炎子が閉じ込められた日が満月で、樹に会った事等から、「樹が仮面の貴公子なのか?」と疑う。

炎子はぐるぐるそのことを考えてしまい、樹と二人で屋上にいる時に思わず「本当は樹くんが仮面の貴公子だったりする?」と直球で聞いてしまう。

樹は否定したが、炎子はいろいろと考えていた疑問点を次々に口にする。

「私の目を見て違うと言って」と樹に言うが、樹はそれができず、炎子はやはり樹が仮面の貴公子なのかと思い、ショックを受ける。

樹は何も言えず、一番知られたくなかった炎子にバレてしまい、この世の終わりのような表情になる。


樹「軽蔑しただろ
もういっそ放っといてくれれば」

炎子「そんなことできない
ショックだけど
突き放したくない
放っておきたくない
なんでか私にもわからないけど
どんな樹くんだろうと
一緒にいたいんだもん」

どうしてこんなことをしているのか、と聞く炎子に樹は

「俺だって間違ってるのはわかってたけど、沙々羅として生きるためには必要だと思ったんだ」と答える。

どうして樹が沙々羅になっているのかと炎子に聞かれ、樹は自分の過去を話す。

樹の両親は政略結婚で愛がなく、父は愛人の方にばかり行っていて、母は父への憎悪を男である樹にぶつけていた。

そのため、母は子供の頃から双子の兄弟の沙々羅ばかりかわいがり、樹には全く愛情を示さず、抱きしめられた記憶がなかった。

沙々羅はいい子で樹に優しかったが、樹とケンカして、沙々羅が樹を追いかけた時に車にひかれて亡くなったため、樹は罪悪感を感じていた。

沙々羅の死後、母はおかしくなり、樹が死んだのだと言って、樹の物を捨てだしたのをみて、樹は頭をスカーフで隠して、沙々羅の服を着てみた。

バレると思ったが、母は沙々羅と言って樹を抱きしめた。
樹は初めて母に抱きしめられた。

そして父に怒られると思ったが「お前がそう生きると決めたなら仕方がない」と父にも受け入れられてしまい、誰も樹のことを必要としていないんだと樹は思った。

そうして樹は沙々羅になった。

 

 

「母に触れてもらえず自分の存在さえ認めてもらえない、どれだけ寂しい思いでいたんだろう、自分を消して、その妹として生きなきゃならないなんて」と炎子は思い、

「今まで大変だったね 樹くん よく頑張ってきたね」と、樹の話をきいて号泣。

樹「何もいわないで
自分をわかってもらおうなんてのは
やっぱり違うよな
お前にはもっと早く言えばよかった」

そして仮面の貴公子の件は、俺を認めてくれるお前がいるから、あんなことはもうしない、と樹は思う。

学園内あるナツツバキの記念樹は、樹兄弟が生まれた時に植えられた樹で、沙羅双樹ともいい、二人の名前の由来でもあると樹から聞く。

ナツツバキは本物の沙羅双樹が日本では育たないため、代わりに植えられたまがい物で「まるで俺と同じ」と樹は思う。

炎子はナツツバキの花言葉は「愛らしい人」で、本物の沙羅双樹には花言葉はないから、愛らしい我が子のためにきっとナツツバキを植えたんだと言う。

炎子は、ナツツバキには賢兄との思い出もあり、この花が大好きだという。

樹は「こんな花ずっと嫌いだったけど、炎子がそう言うと、俺も好きになれる気がする」という。

樹「そんなに容姿が優れているわけでもないのに
どうしてお前なんだろう
どうしてこんなに特別なんだろうな 炎子」

と言って樹は炎子にキスをする。

 

 

そこへ樹の母がきて、見られてしまい、女の子同士で何をしているのかと咎められる。

あれこれ言っているうちに母は具合が悪くなり、樹は「ごめん」と言って母について行ってしまう。

それから3日、樹は学校にも来ないし、炎子は樹に会えず連絡もないまま。

連絡先を聞いておけばよかったと思った時、前に佐久間から電話があったことを思い出し、佐久間に電話をかける。

佐久間が出た後すぐに樹に代わり、「助けてほしい時は言うから、待ってて」と言われる。

しかしそれから1ヶ月たっても樹から連絡はなく、学校にも来ないまま、夏休みになり、炎子は久しぶりに実家に帰った。

実家に帰り、母に「炎子が一番会いたい人が待っている」と言われる。
それは賢兄だったが、炎子は樹かと期待してしまった自分に気付き、樹はもう友達じゃなく特別な人なんだと自覚する。

「樹に待っててと言われたが、このまま何もせず待ってていいのか」と考えていたところへ、炎子の実家に佐久間がやってきて、樹からの伝言として「篁樹のことはもう忘れるように」と伝える。

炎子は樹が本心でそう言ったとは思えず、佐久間に頼み込んで、樹のところへ連れて行ってもらう。

樹は母に、もう学校に行く必要はない、ずっと私のそばにいて、と言われ、きれいなドレスを着せられたり、合わないハイヒールをはかされていた。

樹は母がおかしいのはわかっていたが、母の手を振り払えなかった。

 

 

そして樹が炎子のことを考えてしまっていると、樹を呼ぶ声が聞こえる。

幻聴かと思っていると、2階の窓の外から木に登った炎子が見え、樹はびっくりする。

炎子は樹の部屋に入り、どうしても今言わないといけないと思って来たと言い、


炎子「あなたのことが好き
樹くんのことが大好きで特別なの」

樹 「なんだよ お前
そんなことだけ言いにきたのかよ
バカじゃねーの」

炎子「口悪くても
樹くんが好きだよ」

と炎子に言われ、樹は手で顔を覆って泣き崩れてしまう。

炎子「樹くんはどうしたい?」

樹「おれは もう 樹に戻りたい」

ごめんな沙々羅
お前を失ってまで手に入れようなんて
決して思っていなかったんだ
ただ ほんの少しだけ
おれを見てほしかった
それだけだったのに

「ごめん ごめんな 沙々羅」

そして樹は炎子に「お前には隣にいて見ててほしい」と言って一緒に母のところへ行き、母の前でカツラを取る。


樹「俺はあなたの息子の樹です」

母「お前が沙々羅じゃないならどうでもいい

お前が人を愛せるかしら
できるわけない
きっとダメになるわ」

炎子「樹くんはあなたを愛してますよ
生まれてからずっと

そうでなければカツラをかぶって
スカートをはいて
合わないヒールを履いて
こんなに苦しんだりしていません」

樹「俺はあなたの子供です
どこにいても心は決して離れません
いつもあなたの幸せを願っています

そしていつか
あなたに名前を呼んでもらえるように
これからもずっとお母様を愛しています」

母は無言だが、涙を一筋流していた。

たとえ闇の中にいて
何も見えなくても
誰もがみんな はじめから
愛する心を持っているんだよ

 

 

樹と炎子、樹の家の庭で二人で向き合い、樹が炎子に好きと言おうとするが、なかなか言えない。

先に炎子が「好きだよ 樹くん」と言うと、樹は照れて「だから何度も言うなって」と言った後、「おれも炎子が好きだ」と言ってキスをした。


私達はキスをした
長い長いキスを


ここからはさーっと時が進んでいって
沙々羅は篁女学院を去り、樹はアメリカに留学。

炎子はそのまま篁女学院で3年に進級し卒業、大学で心理学を学んだ。

そして炎子は現在、25才。

児童養護施設で樹と一緒に働いている。
(詳しく説明がないのでよくわからないが、建物に「サラソウジュ」と名前がついているので施設を経営しているのかもしれない)

賢兄が表紙になった雑誌が送られてきて、賢兄は今もモデルで活躍している様子が伺える。

樹の母から荷物が届き、一緒に手紙が入っていてそこには


樹へ

体を大切に
(追伸)炎子さんと早く結婚しなさい

母より


とあるのを見て、二人は感激している。
(荷物はよく送られてきているようだが、手紙が入ってたのは初めてな様子)

 

 

感想

炎子が前向きでピュアな心を持っているところが、すごくよかった。

すごく重い家庭の問題を抱えた樹の支えになり、助けになり、樹を苦しみから救い出してあげるのが、すごくよかったです。

一度だけ炎子は心が折れそうになったけど、その時は樹が助けてくれたのもよかった。

樹は周りが自分に取り入ろうとしてくる人ばかりだったので、炎子を信用するまでに時間がかかりますが、それにめげずに何度も樹にアタックしてくる炎子の言動が、樹の心に刺さっていき、徐々に気持ちを動かされていきます。

樹が自分が男であることを確認するために、不特定多数の女の子とHしてたっていうのは、ちょっとショッキングな話でした。

少女マンガ的にこういうのが出てくるっていうのがちょっとびっくりでしたが、少女マンガって分類じゃざっくりしてるので、この作品は対象年齢が大人向けな方のものなんでしょうね。

樹の事情を考えると、その行為で自分が男だって事を確認したくなる気持ちはわかる気がします。
だって、それこそが性別を表している体の部分を使う行為だものね。

 

 

樹の母は愛のない政略結婚ということですが、息子にあたるってことは、夫のことを好きだったってことなんでしょうね。

なんとも思ってなかったら開き直って自分も愛人を作るか、夫は気にせず好きに生活して、自分の息子にあたるなんて行動はとらない気がします。

お金はあるんだし、他に気を紛らわせる方法はいくらだってあったろうに、夫への憎悪を代わりに自分の子に向けるなんて、母親としてダメすぎて、私は同情の余地なしって思っちゃいます。

この物語の諸悪の根源で、病んでるダメな人です。

妹だけに母の愛情が注がれているのを見ながら育った樹は、なんてかわいそうなんだろうと思います。

酷い扱いを受けて、ずーっと傷つけられ続けて、それでも母親を嫌いになれず、母親の愛情を求めちゃうっていうのが、虐待された子供がよくとる行動で、ほんとにかわいそうでした。

母親の呪縛から逃れられなかったんですね。
最後も母親の言うことをきいて、炎子と離れようとしましたが、炎子が救ってくれました。

炎子えらい!ほんとに。
炎子は樹の救世主だなと思います。

そして最後まで酷い言葉を浴びせられたのに、それでも母親をずっと愛しているなんて、言えるのはすごい。

でもそこはマンガ的な、いいお話的な言葉で、本当はそんなことなかなか言えないだろうなーと思ったりしました。

私だったら、そんな母親、諦めて離れちゃってもいいのにって思っちゃうけど、そこが虐待された子の心理なのかなぁとも思って、かわいそうで切ない。

 

 

母親の問題にとりあえず決着がついた後は、さらーっと月日がたっちゃうんですが、特に樹がこの後すぐに留学しちゃうのは「えー?そうなの?」って思いました。

男に戻れたから樹の心の問題はほぼ解決なのかもしれないけど、炎子と離れちゃうの?っていうのがいまいち納得いかず。
まだ両思いになったばかりなのに。

海外にいく意味が何かあるのか?と。

炎子と一緒に青春をすごす方がいいじゃーんって思うんだけど、そこは具体的に何したのか、大学はどうしたのか、全くわからないので、それ以上はなんとも言えないんですが・・・。

ツッコミどころの一番は篁女学院。

全寮制なのに、寮に誰も住んでないって有り?

そしてお金持ちの学校なのにあんなボロい寮はないんじゃないの?

たぶん樹と炎子が、他の子に知られないで一緒にいる場を作るために、そういう状況が必要だったのかなと思うけど。

誰もいなくて、炎子一人のために寮母を雇ったの?
新しく入ったばかりっぽくないけど、誰もいない寮で寮母雇ってたの?

炎子の母の憧れ、夢を叶えるために篁女学院にしたけど、炎子母の憧れは実情を知らないただの幻想だったわけで、そんなことのために、炎子は篁女学院に残っていいの?って思いました。

篁女学院に行ってよかったのは、樹に出会えたってことだけ。

他の子は、自分の家の利益になる家柄の子と、つながりを持とうとしてるような子ばっかりの学校。

かりんは炎子と一緒にいてくれたとはいえ、他の子とは親しくなれず、全然楽しくない高校生活になっただろうし。

学力が高いだけの、いい人間のいない学校で、残りの高校生活を送るってことでいいの?

また編入ってのも大変だろうけど、この学校でほぼ孤立した高校生活を送るよりいいんじゃないの?って思います。

炎子母だってこの学校の実情を知れば、憧れなんて覚めると思うけど。
そんな学校に樹もいなくなったのに残るなんて、なんだかなーと思いました。

 

 

それと佐久間の行動が微妙でした。

樹のために炎子に連絡したり、樹のためを思って独断で行動してるかと思えば、樹の母が樹を呼べというのにいちいち従っている。

雇用主とはいえ、学校行ってる子供を、いちいち自分の都合で呼び出す親なんて、おかしいってわかってるだろうに。

それなのに樹に電話して、樹が出ないのを「出てくれ」と願ってるのは、なぜ?って思ってしまった。

適度に樹の母の要求をかわして、樹をいちいち呼び出させないようにとかしてあげるんじゃないのか?って思った。

樹が、母と会う度にパニック障害の発作を起こしているのも知っているのに・・・。

樹の父はほとんど出てこないけど、この人も、樹は一応跡取り息子なのに、なぜ女装して女のふりをすることに何も言わないんだろう。

愛人の方が好きでも、体裁上、愛人の子を継がせるとかは無理だろうし、金持ち一族なんだったら、妻には関心がなくても息子に無関心ではいられないんじゃないの?

結局、樹は炎子と一緒に児童養護施設で働いてるみたいだから、グループ企業の経営とか父親の跡を継ぐとかは関係ないのか、そこら辺どうなってるのか疑問でした。

そういう多少のツッコミどころはありましたが、ストーリーはよかったです。

心理描写もしっかりしてて、樹の気持ち、炎子の気持ちもよくわかって、納得できる心理描写だったなと思います。

コミックは描き下ろしおまけ付きだそうで、最後がさーっと時がすぎてわりとあっさり終わっちゃうので、その後の様子がもっと描かれてるならみたいけど・・・。

電子書籍しか出てないようで中古本という手が使えない・・。