漫画「センコウガール」永井三郎 感想

f:id:whitebluework:20181226220843j:plain

ネタバレありなので、ご承知の上。

マンガワンにて。完結。

不登校だった女子高生の如月民子(きさらぎたみこ)が、数ヶ月ぶりに登校してきて、クラスメイトの田辺曜子(ようこ)を名指しし、いきなり「あんた今何考えてた コレ見て何か感じた?」と自殺したクラスメイト白河七子(ななこ)の机を叩いて聞く。
そして保健室に行くと言って、三浦英子(ふさこ)、早川隼子(としこ)を名指ししただけで去っていくという謎の行動をしたり、冒頭は民子が血だらけのシーンだったり、超美形の民子がキラキラしながら走っていたり、最初の方は何がなんだかわけがわからない感じが続きます。

それでも少しでも興味を感じたら最後まで読んでほしい。
悩みを鋭く描いた作品だと思います。

とにかく民子がすっごくキレイです。すごく好きな美形です。
ぶっ飛んだ感じなところも好きです。
そんな民子自身のキャラクターの魅力と、わけわからないけど、どうなるんだろうと話に引き込まれて、読んでいました。

 

徐々に、民子の背景や家の状況に何かあるなというのが匂わされていきます。
もしかして民子は人を殺したの?もしかしてそれは母親?っていう「もしかして」を、ずっと思いながら、読者はこの話を読み進めていっただろうと思います。
民子が、時間がない、もう遅い、私にはもう意味がない等と時々口にするのは、殺人を犯して捕まってしまうからなのかと思いながら読んでいました。
実はどうなのかというのは終盤の25話から語られます。


英子も隼子も民子に、上履きを切り裂く、机や体操着袋にヨーグルトを入れる等の嫌がらせをしていました。そして二人共それぞれ別の理由でですが、いつも「死にたい」と口にしていました。

 

三浦英子(ふさこ)

民子に名指しされた一人。民子に靴を取られて追いかけて、屋上で死闘を繰り広げた。
民子はイジメの復讐ではなく「本当に死にたがっている人が死ぬ時の顔が見たい」と言って英子に殺してあげると言うが、英子には民子が悪魔に見えると言うと興味を失くして去ってしまう。
(本当に死にたがってなかったから)
自殺した七子は民子のことを天使に見えると言っていた。

英子は幼い頃、祖母からは女の子は笑顔が一番、かわいいと言われていたが、小学生の頃に酔った父に「ブタみたいな汚ねぇ顔でヘラヘラ笑うな メシがまずくなる」と言われ、母も何も言ってくれず、その父の言葉がトラウマになり、顔がコンプレックスになって笑わなくなった。
英子の母親は美容外科医で、自身も整形を繰り返していた。
そして英子も母に頼んで何度も整形をしていた。

容姿にコンプレックスのある英子は、年をとって美しくなくなる前に「死にたい」と常に口にしていて、何もしなくても美しい民子を見つけて憎んでいたため、民子に嫌がらせをしていた。

「死にたい」と言っていた英子だが、民子が去った後に屋上から落ちそうになると、爪が割れてカラコンが外れてケガをしながらも、必死になってよじ登った。

 

早川隼子(としこ)

民子に名指しされた一人。隼子の父親は昔、有名な陸上選手だった。小さい頃から走るのが早かった隼子は父親に褒められるのがうれしくて、父と一緒に陸上の練習に励んだ。練習ばかりで友達と一緒に遊べないことに不満を持つこともあったが結局父との練習を選んでどんどんトロフィーが増えていった。スランプで1位を取れなくなりダイエットのしすぎで生理もこなくなり、おそらく食事制限のしすぎだと思った父が焼き肉を食べようと言って、隼子がホットプレートを取り出そうとした時に足に落としてケガをしてしまった。
ケガで走れない間に他の選手がどんどん上手くなっていってしまうと焦り、ケガが治っても杖を手放せず、どんどん精神的に追い詰められてしまった隼子は自暴自棄になってネットで相手を探してセックスしようとしたが相手に男の子にしか見えないから無理だと拒否され、いろいろ嫌になって「死にたい」と言っていた。

民子が陸上の練習をしたこともないのに体育でタイムを測るとインターハイレベルだと言われているのを見て、何年も陸上の練習をしてきてスランプになってる隼子は民子を憎み、英子に乗じて民子に嫌がらせをしていた。

民子に殺してあげると追いかけられ、海のテトラポットの所で死闘を繰り広げた。
民子に殺されそうになって必死になって抵抗して逃げた。杖がなくても走れた。
「そんなあてつけみたいにふてくされなくていいじゃん」
「ほんとは早川さん 死にたくなんかないし 走るのだって好きなんでしょ」
と、民子に図星を指された。

 

白河七子(ななこ)

自殺したクラスメイト。
スラッとして長い髪の美人だが、彼女は性同一性障害で、心は男だった。
けれど小さい頃から、スカート、かわいい服、長い髪を母親から強要されてきていた。
イケメンの中谷と付き合うと母は喜んだが、七子は中谷とセックスしようとした時にどうしても受け入れられず、ハッキリと自分の中身は男なんだということを自覚した。

自分で自分の胸に傷をつけたのを母に見つけられ、母に性同一性障害を告白するが、母は聞く耳を持たなかった。母は七子が小さい頃からなんとなく気付いていたが認めたくなかった。
「お願い 許して 私は今まで一度も「自分」を生きてない・・・」(16話)
と七子が言っても母は聞きたくないと言い、
「どこか遠い所からやってきた得体の知れない化物にしか見えない」とあくまでも七子を拒絶した。

 

七子は中学の頃に密かに好きな女の子がいたが、卒業の時にメッセージを書いてもらっただけで終わった。高校で、曜子のことが好きになり、放課後、曜子の席にいるところを民子に見られて以来、七子の秘密の共有者になり、学校では話をしないが、たまに二人で海辺で会って話をしていた。
ただ民子が七子の秘密の話を聞くだけで、民子は七子の話にあまり興味はなかったが、七子はずっと誰にでもいいから吐き出したかったし、民子と七子は似ていたので、民子は七子と一緒にいるのは心地よかった。二人とも、いっぱいで溢れそうで真っ黒な長いトンネルにいた。

夏休み最後の日、七子は曜子を呼び出して告白した。
心は男なんだと説明したが、普段から考えることを拒絶していた曜子は、「意味がわからない」と拒絶した。その後、七子は民子を呼び出していつものように海辺で話をし、民子が「私がひと思いに 殺してあげようか」と言うと穏やかな表情を浮かべた(6話)。

 

「ありがと 民子 なんかちょっと安心しちゃった
 その時はそうだね 民子が私を殺して」
と言って七子は大丈夫だと言っていた。
そして民子に「学校に行ってみない?屋上から見る夕日ももっとキレイかも」と誘ったが民子は行かないと断った。そして七子は屋上から飛び降り自殺をした。

民子「きっと落とし穴はいつでも七子のそばにあったけど穴に落ちる力もなかった
   ちょっと力を取り戻せた時にやっぱり目の前に穴があったから
   だから落ちちゃったのかな スコーンって
   ああ やっぱり 私がこの手で七子を殺せばよかった」(9話)

七子は母親に性同一性障害を告白しても受け入れてもらえず、黒い箱の中にいた。
民子によると七子は曜子に告白するつもりはなかった。
けれども黒い箱に入ってしまい切羽詰まって、黒い箱から出るために、自分を受け入れてくれる何かが必要で、それは七子を知ってる民子じゃなく、七子が好きな曜子だったから、告白したのだと言う。

 

梨香(りか)

七子と小学生の頃から一緒の幼なじみで、お互い相手のことは何でも知っていると思っていたため、七子の自殺の理由がわからなかった。民子と曜子の話を偶然聞いてしまい、七子が性同一性障害だったことを知って、ショックを受ける。

七子にとって梨香は大切な友達で他の女の子とは違って自分が無理せずに話ができた。そんな梨香に嫌われたくなくて、七子は梨香に秘密を打ち明けられなかった。

梨香は、七子が生きている時に秘密を打ち明けられたとしても、自分も七子の母親と同じように受け入れられなかっただろうと思う。
「そこにあるのは後悔じゃない
 受け入れることができない自分に対する怒りと
 大切な人を失った悲しみだ
 この想いをずっと持っていくんだろう」(最終話 後編)

 

田辺曜子(ようこ)

民子は七子から曜子の話を聞いて少し興味を持っていた。
民子は曜子に話しかけ、近くにいるうちに、からっぽな曜子が自分の探していた、自分を受け入れてくれるものだと思った。

民子は学校への通学途中に見える佐久良島に、学校をサボって曜子と一緒に行く約束をした。

刑事

最初は七子のことで話を聞きに民子の家に来た刑事だが、民子の家で死臭に気付き、気になってまた民子の家に来た。異臭がする、庭をみせてくれと言われ、バレそうになり、明日は曜子と島へ行く約束をした日だったので、邪魔されないように、民子は刑事をスコップで殴り、ガムテープで顔や手足を縛ったまま、気絶している刑事を放置して家を出た。

刑事は気付くと、「えーそんなのあり?」って感じで、「ふんっ」と力を入れただけで全部のガムテープを破った。ちょっとギャグ気味な役回りの人。
民子を島で見つけて銃を構えるけど、日本の刑事はそんな簡単に銃を出せないんじゃ?と思ったけど、まあいいか。

 

民子と曜子、佐久良島へ

民子は刑事のいる家を出てホテルに泊まり、自分で髪をバッサリ切った。
待ち合わせ場所の船着き場に曜子が来てくれたことを民子は喜んだ。
島では二人でカフェに行ったり、海に入ったり、タコを食べたりした。
曜子が民子に帰りの船便の時間を聞くと、民子は「向こうには帰れない」と言うので、曜子は泊まっていこうと言う。

そして曜子自身の話を聞く。
曜子は母親とほとんど話をしたことがなかった。子供の頃から母はごはんは作ってくれたが、話をしなかった。父親もいなかった。人との関わり方、母親との関わり方がわからなかった。
人から、普通じゃない、かわいそう、と言われたが、母しか聞ける人がいないのに母にも聞けず、一人で考えてもわからなくて、頭が痛くなるだけだった。
だから考えないでいるように、食べることでごまかした。からっぽの私に食べ物をたくさんつめこんだ。
だからいつも曜子は何も考えずに、しょっちゅうパンを食べていた。

素泊まりで宿に泊まり、二人で露天風呂に入った。
そして今度は民子の話を聞く。

 

民子の父と母

民子の父親は婿養子だけど民子が生まれる前に離婚。お金目的で婿入りした人で、民子が幼少時に母に聞いた話によると、嫁と子供とインドネシアにいるらしい。母は近所の人には「父親は海外出張」とごまかしていた。母の父親(民子の祖父)は不動産持ちで金持ちだったが、若い頃に妻と一緒に事故で死亡したらしい。

民子が小さい頃は出かける時はおめかしして連れて行ってくれたし、かわいいとよく言ってくれたけど、「かわいい民子ちゃん」を連れて歩く自分が可愛かったのかなと民子は言う。
ある日、母の友達が「民子ちゃん、お母さんに似てなくてかわいいわね」と言ってから、かわいい服装をさせてくれることもなくなり、連れて歩くこともなくなり、いつも家にひとりぼっちでいた。
母親は「母」じゃなくて「女」になって、民子のことも「娘」じゃなくて「女」としてみるようになった。
民子はかわいいからヘンな男達からたくさん嫌な目にあったけど、母に助けを求めても、民子が誘ったんだと言われていた。

 

そんな母親を民子は「ほんとうに最悪」と言ったけど、それでも子供として母親を求めてしまう民子が悲しくてかわいそうだなと思います。
親に虐待された子供の話で、ネグレクトだったり暴力だったり、ほんとに親に親らしいことを何もしてもらえてなくて、酷いことをされ続けていても、それでも子供が親からの愛情を求めて期待してしまう、という話がよく出てきますが、そういうのってほんとに悲しくてかわいそうなことだなと思います。

民子と母のエピソードはこの物語中で、ちょいちょい出てきていました。
民子の母が民子を女として嫉妬する様子や、民子が子供の頃から、変質者や同級生の男から度々性的な嫌なことをされそうになってきたこと、容姿や成績がいいことで同級生の女の子からもイジメや嫌がらせを受けてきたこと等が、ちょいちょい描かれています。

民子の父の絵は一度も出てきません。なので母に似てないと言われる民子の美しさは父似なのか、それとも母の若い頃はもっとキレイだったのか、よくわかりません。民子の母の普通の顔のアップの時に、ゴテゴテと化粧が濃くなければ、目の形とか民子と似てるのかもと思える時もあったりしましたが。

 

民子の打ち明け話

今までの民子からの話で疑問に思っていたことを曜子は聞く。
「もしかして お母さんってもう亡くなってるの?」
民子は8月31日に死んだのだと答える。
テレビで、民子達の住む街の民家から遺体が見つかったというニュースが流れる。

そしてずっとそうじゃないかと思いながら読んできたことを曜子がズバッと民子に聞きます。
「お母さん 殺したの?」
「まさか 私が お母さんを殺すわけがない」

そして風呂から部屋に戻ってそれぞれ布団に入り、民子の打ち明け話が始まる。

民子は6月初め頃、頭痛で学校を休んだが、それから毎日頭痛が続き、学校で嫌がらせをされていて学校に行っても楽しくなかったので、そのままズルズル休んでいたが、痛みは酷くなる一方で吐くこともあった。民子が学校に行ってないことに母が気付いたのは7月半ばだが民子に文句を言ってまた彼氏と旅行に行ってしまった。8月半ば頃に耐えられなくなって病院に行くと今度親と一緒に来てほしいと言われた。
文句を言う母と一緒に行くと母だけ呼ばれ診察室に入った。
母が出てきて「民子 大変よ あんた死んじゃうんだって」と、医師はよく考えて娘に伝えるように言ったのに、母はすぐに民子に言ってしまった。

 

民子には脳腫瘍があり、症状が出にくい場所で既に大きくなっていて手術も難しく、例え成功しても少し寿命が延びる程度で、余命1ヶ月だという。
母は民子を抱きしめて「かわいそうに」とわんわん泣き、民子は母が自分のために泣いて抱きしめてくれていることが、昔の母に戻ったようですごく嬉しかった。
そしてこれからはずっと民子のそばにいると言った母だったが、翌日になると、やっぱり彼氏と旅行に行くと置き手紙を置いて母は旅行に行ってしまった。

民子「あの時のお母さんの涙はなんだったんだろ どこか遠いところで起こった悲しい話を見てるような、他人事を哀れんでるみたいだった」
それでも母の帰りを待って帰ってきたらそれからはずっと一緒にいてくれると思っていたという民子が、やっぱりすごく悲しくてかわいそうだなと思う。

 

8月31日、七子から電話があって夕方、海岸で会って話をして、七子は学校へ、民子は家へ帰った。
帰ると靴があったので、母が帰ってきたのだと思いリビングに行くと、母は彼氏の安藤に首を絞められて死んでいるところだった。
笑顔で「お帰り 民子ちゃん やっと二人になれたね」と言う安藤。

旅行帰りに民子の母が家に呼んでくれたが民子がいなかったので、「民子ちゃんに会いたかったな」と安藤が言うと母がブチ切れて手がつけられなくなり、安藤はもうガマンの限界だったのだと言う。

安藤は民子の小学校の近くに住んでいて、民子が小学生の頃に民子を見かけて天使だと一目惚れした。安藤は毎日民子の登下校を観察し、どうにか近づけないかと考えて民子のことを調べ、民子に近づくために民子の母に近づき、民子とずっと一緒にいるために家族になろうとしたのだった。
けれど民子の母にガマンならずに殺してしまったので「一緒に逃げよう、僕の女神」と言ったところで、民子に脳天をナイフで刺された。

 

イカれててもヤバくても私のお母さんなの
たったひとりしかいないの
まだ話したいこととか してげたいこととか してほしいこととか たくさんあったのに
あんたは あんたたちは なんでいっつもジャマするのぉ

と言いながら民子は安藤をナイフでめった刺しにした。
そして「うわーん」と子供みたいに大泣きした後、ふと気付くと民子は黒い箱の中にいた。

あれは妄想だったのか、幻覚だったのか・・・。黒い箱の中で、民子が子供の頃、母にボロボロにされて捨てられたけど、好きだった人形が出てきて、民子と会話する。この黒い箱から出るのに必要なもの、民子が欲しいものは何か聞かれて、民子は答える。
1つは、死にたい人が死ぬ時どんな顔なのかが見たい、その顔を見たら怖い気持ちがなくなるかもしれないから。七子に殺してあげると言った時、すごく穏やかな顔をしたから。
もう1つは、私を受け入れてくれるモノがほしい、下心や打算のない、いっぱいじゃないからっぽなもの。
その2つを欲しいという気持ちを高めて、民子は力が湧いてきた。
「民子ちゃんは変われるよ さぁ立って」と言われて気付くと、3日たっていた。
死体を庭に埋め、2日かけて部屋をキレイにして、学校に行った。

 

「私は欲しいモノのもうひとつはどうでもよくなっちゃった
 曜子がいるから 怖くないよ」

曜子は「ごめん、少し考えさせて」と言って、その夜はそのまま寝た。
翌朝、民子が目覚めると、曜子が泣いていた。
「あんたがもうすぐいなくなるんだって思ったら涙が止まらなくて
 私 泣いたことなくて だからよくわからないけど
 かなしいんだと思う
 一緒に 逃げよう」

 

逃避行

民子と曜子は宿を出て、海に行くが、船着き場にも既に刑事がいた。
曜子は地図を見て、あれこれ逃げ道を考えて先頭をきって民子を連れて行ってくれるが、民子は座り込んでしまう。

民子「体力 つかうんだ すごく もとめるって
   でも ようこがくれたから わたしの ほしいもの
   火が きえる」
曜子「駄目 駄目だよ」

そこへ民子がスコップで殴った刑事がやってくる。
民子はとっさに曜子を抱えてナイフを突きつけて、
「この子は私が脅して無理矢理連れてきた 全然関係ない子なの」と言う。
曜子は民子に小声でこのままこの道を行って曲がったら思いっきり走るよと指示を出す。
曲がり角で二人で走り出すが、民子はすぐに走れなくなる。

「足も手も重くて感覚がないの 舌ももつれるし 目も良く見えない」
「すぐだよ すぐそこだよ」
「曜子 巻き込んでほんとごめんね 家に帰ったらお母さんのご飯食べてお母さんと話して」
「ムリだよ そんな」
「できるよ だって 二人とも 生きてる」

曜子は「行くよ」と言って民子の手を掴み、「私 イヤなの もうあんたを 箱に閉じ込めさせたくないの」と言って民子を引っ張って走ろうとする。

「曜子 ありがとう
 受け皿なんかじゃなくて 受け入れてくれるモノじゃなくて
 私が本当に求めてたのは
 見つめると見つめ返してくれるまっすぐな澄んだ瞳
 手をにぎるとにぎり返してくれるあったかい手
 想うと想ってくれる人」
と民子は思いながら、目に涙を貯めて、嬉しい表情を浮かべる。
そして民子はそのまま曜子の方へ倒れてしまう。(28話)

 

君去りて

民子は曜子の方へ倒れた時に亡くなっていた。
テレビのニュース番組で、民子の家で見つかった遺体の事件について報道していた。
テレビで話していた脳神経外科医によると民子の状態では日常生活もままならないはずで、普通に通学していたのは考えられないことだという。現代医学の観点からいうと少女の気力、生命力による奇跡としか考えられないとのこと。

民子はかばおうとしてくれたが、曜子は警察でありのままを話した。
佐久良島から連れられ警察にいた曜子のところへ母がかけつけてくれ、そのままずっとついてきてくれていた。

 

コーキ

最初は、チャラいイケメンって感じだったけど、民子に頭突されたり股間やお尻を蹴られたりして拒絶されても、逆に民子にひかれていって、めげずに民子にアタックし続けてた男子高校生。
彼の存在はずっとコミカルな役回りで明るく描かれてたけど、彼もとっても美形な人で女の子にモテてたみたいなので、美形ゆえの悩みはあったんじゃないかと思います。
だから民子が美形だからってだけじゃなく、見た目だけで自分に寄ってくる女の子達とは違う民子にひかれた部分があるんじゃないかな。
彼はでも民子みたいに酷い環境じゃなかったんだろう&彼まで闇を抱えた存在じゃ物語として重すぎるから、コーキはチャラいイケメンに見えるけど意外と素直でイイ子として描かれたんだろうなぁと思います。

そんなコーキに民子も他の男と違うと感じたのかこんなことを言います。
「あんたみたいな男が幼なじみとかだったら、ちょっとは違ったのかな でも もう遅い」(18話)

 

民子の死後、コーキが学校の前でいろんな子に聞きまくるまでして曜子の家を調べて会いに来て、民子の話を聞いた時に、
「民子ちゃんの最期に曜子ちゃんがいて本当によかった
 けど なんで俺の家は民子ちゃんの家の近くになかったんだろ 
 俺 なんで民子ちゃんの幼なじみじゃなかったんだろ
 くやしい くやしい くやしい」
と言って、号泣するコーキに、すごく泣けました。

ほんとうに、民子にコーキみたいな子(もしくは七子、曜子)が幼い頃から近くにいて、民子を受け入れてくれてたら、民子の人生はもっと違ってたかもしれない。
ずっと最悪な母親にとらわれずに、もっと他の事に目を向けて、楽しく生きられてかもしれない。
それに民子が脳腫瘍で死ななければ、コーキと曜子とこれから楽しい人生を送れたかもしれない。でも民子が脳腫瘍になったから起こした行動でもあるので、タラレバで語っても仕方がないのかもしれない。

コーキはほんとにイイ子だった。民子が死ななければ幸せなカップルになれたかもしれないと想う。
コーキが出てくるたびに、民子と仲良くなれればいいのにって思ってたのになぁ。

 

その後の英子と隼子

英子と隼子が、曜子に民子の話を聞きに来たので、民子から聞いた話を全部話して聞かせた。
二人共それで素直に民子に対して、同情したり感謝したりはしなかったし、自分に比べたら私の悩みなんてちっぽけなものと言いたいのかと怒ったり、自己中女と言ったりしただけだったけど、
「民子に殺されそうになった時、私の中心がむき出しにされて暴かれた感じがして、怖くて怖くてずっとうずくまってた」と言う英子の言葉に隼子も同意した。
そしてジワジワと民子の言動が二人の心に染みていった。

英子は母に整形手術をしてもらってキレイになって嬉しかったし矛盾しているけど、母に否定された気がして悲しかったと本心を明かした。
母は子供の頃、顔のせいでひどくいじめられ、死にたいほど苦しかったけど、整形して自信を持てるようになったので、同じように苦しんでいる人のために美容外科医になった。娘だからこそ苦しんでいるなら助けたかったから整形したけれど、そう思わせてしまったなら悪かったと謝罪した。
母の話を聞いて英子は、母はすごい、自分とは違うと思い、私はもう整形はしないと母に言った。

英子は彼氏から「顔で選んだんじゃない」と聞いてホッとしたが、「わがままなお嬢様に尽くしたい願望がある」と言う彼氏に、不毛だと感じて別れを告げた。

隼子は一番になれないかもしれないけど、また父と一緒に走ることにした。
父も母も隼子が立ち直るのをずっと待ってたんだということがわかり家族で気持ちが通じ合った。

 

その後の曜子

曜子はしばらく喪失感で学校にも行かず何もせずに家にいた。
しばらくして少しずついろいろなことを考えるようになり、民子の事、七子の事、自分自身の事を考えた。
そして民子が最後に言ったように、自分の母親と話をした。

曜子の母の過去

曜子の母は孤児で、頭も悪く口下手で、うまく人となじめずに施設を転々としていた。18で施設を出て働き始めても、どこへ行ってもすぐミスをし、怒られ続かなかった。車の部品工場で働いていた時に父と出会い曜子を妊娠したが、実は父は妻子がいて出稼ぎに来ていた人で、母を置いて逃げてしまった。生まれた曜子を抱いて海岸に行きそのまま死のうとしたが、曜子に握られた温かい手に生きなきゃと思った。二人で生きていくために自分にできることは「女」しかないと思って初めて自分なりに努力した。
自分の全てに後ろ暗い気持ちがあって、曜子には「ごめんね」っていつも思ってるけど、どうやって接したらいいかわからなかった。

 

ラスト

そして曜子は母に「いつもごはんありがとう 私のために」と言えた。
母はキャバクラ、風俗、AVをやってると噂されていたが、AVはやってないらしい。

母は曜子が学校に行かなくなった間、母もそろそろ体がきつくなってきたと思ってたからと水商売を辞めていて、その後、明太子の製造工場で働き始め、ミスは多いけど、なんとかうまくやっている様子。

曜子は「ひとりごと」と言っているが、民子と会話しているような事を言っているシーンが何度かある。その度に、母が誰かいるのかと思って、ガラッと扉を急に開けるのがコミカルでおもしろい。私は曜子は心の中で民子と会話しているのかな、と思っている。

曜子が1ヶ月ぶりに登校する日、写真部に入ることにしたと母に言い、ファインダー代わりに指で四角を作って景色を見ていると、民子の笑顔が見えた。
そして曜子は学校へ走り出し、命の火が灯っている絵で、おしまい。

曜子の「私が民子の光になれたのだとしたら そのことが私の光でした」という言葉がすごくよかった。

 

感想

最初にも書きましたが、最初はストーリーはどうなるのか、どういう話なのか全くわからず、とにかく民子のキャラクターの魅力で読んでいました。
ほんとうに民子が美しい。すっごく好きです。ほんとに美形だなと思う。
コーキも美形でイイ子で好きだった。

永井さんのちょっと可愛い顔になったキャラ絵も好き。

ストーリーはメインの登場人物たちがみんな心に大きな悩みを抱えていたけど、民子のぶっ飛んだ感じのキャラのせいもあって、作品全体の雰囲気はあまり重くなかったです。
いろいろとそれぞれの悩みを鋭く描いていたと思います。
私はもういい年の大人なので、これを読んで救われたみたいなことはないですが、若い人が読んだら、心に刺さる部分があるんじゃないかなと思いました。

曜子、隼子、英子は親にも少し問題があったけど、でも結局、うまく意思の疎通ができてなかったり、相手の気持ちがわかってなかったりしただけで、彼らの家族の場合は、ちゃんと子供の事を思ってくれてるところのある親たちでした。表現が下手な人だっただけでした。

けれど、民子、七子の親の場合は、救いのない親でした。
死んじゃった方の子の親たちですね。

七子の母親は、七子が死んでもそれでも七子の性同一性障害を受け入れられないと言っています。
受け入れられない存在が自分の子供であるというのは、七子の母親にとっても試練なんでしょうが、ここまでの拒絶と強要がなければ、もう少し、あと数年我慢できれば、母親の元を去って自活する道もあっただろうにと思うと、かわいそうでなりません。
必ずしも七子と母親が理解し合う必要はないと思います。
受け入れられないならば、それで生きていけないならば離れればいいのです。
まだそれができない年齢だったことが悲劇でした。
そして七子は最後まで彼女を受け入れてもらうことなく死んでしまったのが悲しいです。
だからこそ死を選んだのでしょうが。

 

民子は母親があまりにも酷い親でした。
母親としてじゃなく、人としても周りからおかしいと思われるような人だったし、民子が言うように最悪な人でした。民子は容姿の美しさが全て悪い方にいってしまったような人です。
容姿が美しいだけでなく、勉強もできたし、運動もできたし、なんでもできてしまう人だったので、周りからの嫉妬で嫌がらせを何度も受けてきました。
同級生や変質者等の男たちから性的な目で見られて嫌なことをされそうになってきました。
幸い、この物語中では、されそうになって毎回逃げられているものとして描かれましたが、現実ではそうじゃないこともあるでしょう。

そしてそういったことから守ってくれるはず、味方になってくれるはずの存在の母親が、逆に民子を敵視して責めてくるような人だったので、ほんとうに大変な環境だったと思います。

そして何と言っても悲惨なのが、親に虐待された子供によくあるようですが、それでも、それだけ酷いことをされたダメな親であっても、子供として親の愛情を求めて期待してしまう、というところで、この物語でもそこがすごく描かれていました。
何度も裏切られても、それでも母親が一緒にいてくれるかもしれないと期待し、一緒にしたいこと、してほしいことがたくさんあったのにと最後の最後まで、民子は母親に期待するのをやめられませんでした。
そこがすごく悲しいことでした。
民子にもっと時間があれば、母親を克服して、母親から離れられたかもしれませんが、実際に大人になっても母親の呪縛から逃れられず、悩んでいる人はたくさんいるようなので、大変なことなんだろうなと思います。

 

でも民子は最後に自分を受け入れてくれる人、曜子に出会えて、死ぬ前に幸せを感じることができたと想うので、そこだけが救いです。
ほんとはコーキもすごくいい関係になれたと思いますが・・・。

民子が曜子を求めていた人だと感じた死ぬ間際のシーン、コーキが民子の幼なじみだったらと号泣するシーンで、すごく涙が出ました。
最初の方を読んだ時は面白いと引き込まれはしましたが、泣くとは思いませんでした。
でも私が泣いたのはやっぱり、民子が死んでしまったから、だと思います。
最後に民子が死ななければ、泣きはしなかったでしょう。
泣かなかったらイマイチな作品というわけではありません。

むしろ民子と曜子、もしくはコーキと仲良くなって幸せになるハッピーエンドだった方が、ああよかったと思って読み終えることができたでしょう。

それでも悩みを鋭く描いた部分は変わらないので、印象に残るいい作品だったなと思います。
でもやっぱり一番よかったのは、民子のキャラの絵でした。
すごくキレイで美しくて、すっごく好きです。


今のところ電子コミックのみの発売予定だそうですが、十分、紙のコミックでおかしくないレベルの作品だと思います。紙のコミックレベルって基準知らないですけど、それだけちゃんとしたマンガだと思います。