漫画「うぬぼれハーツクライ」香魚子 感想


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私を好きにならない男は見る目がないだけ、自分にふさわしい相手がいないから、彼氏がいたことないけど、妥協したくないだけ。
うぬぼれの強い女子高生の女の子の恋の話。

全2巻、完結済み。

以下、ネタバレありなので、ご承知の上。

 

葉山ゆり(16)高校2年生は、中学生の頃、平凡な見た目の男の子が3年間ずっと好きで、中3の時に告白したがふられた。
中学の頃からそこそこもてていたユリはプライドが傷つき、自分をふったことを後悔させたい、もっと可愛くなって、もっといい男と付き合って、見返したいと、自分を磨いて自分にふさわしい相手が見つかるまで、告白されても妥協せずに彼氏のいないまま、プライドだけは高くなっていた。

ある時、剣道部の朝倉真(まこと)の部活中の姿を見て、自分にふさわしい男だと狙いを定めて、朝倉くんの気を引こうと恋の駆け引きをしかけるものの、硬派な朝倉くんには通用せず、朝倉くんをおとそうとしているのを見透かされてしまい、「やるなら正々堂々勝負しろ 小賢しい真似するな」と言われてしまう。

ユリは恋のハウツー本を読んで、朝倉くんにしばしちょっかいかけて、その後引いて相手が気になってきた頃にまた会いに行って〜という駆け引きをしてるつもりになってますが、完全にユリの一人相撲。

タイトル通りのユリのうぬぼれた思考がスゴイというか、おもしろいというか。
いい子ではないし応援しようとは思えないんだけど、ユリの思考をみてムカついたりするわけじゃなく、一歩引いてみて、「あーこんな事考えてるなんて、ハズカシー」って思える感じ。

 

朝倉くんをライバル視してるチャラめなイケメンの新見くんや、ユリと高1の時のクラスメイトで本当はユリをライバル視してるくせにブリッ子なミユも絡んできますが、彼らはほんとにお話を彩るただの脇役で、朝倉くんやユリを好きになって恋のライバルになったりはしません。

朝倉くんは、勉強もできて運動もできて、剣道も強いんですが、人付き合いはうまくいってません。
優秀すぎるのと朝倉くんが人と関わるのが下手なせいで、周りから距離を置かれてしまっています。

朝倉くんは家族ともそれほどいい関係ではないようで(特に悪くもないようですが)、家政婦さんが常にいるような大きい家にありがちな、両親は不在がちで厳しく育てられた家庭な様子。

子供の頃、お仕置きで蔵に入れられていた事が、暗いところが怖いトラウマになっていて、治ったと思ってたけどまだ残ってたっていうエピソードがあります。
昔のお仕置きで押入れに閉じ込めるとかよくあるけど、そういうのは子供にやっちゃダメだよね。
深くはでてこないけど、お金持ちでありがちな愛情薄めな家庭環境が垣間見えて、朝倉くんの背景はちょっとかわいそうな感じです。

 

そしてユリの恋のライバルとして登場するのは、朝倉くんの幼馴染の葵(あおい)。
高校は別の学校で、お嬢様学校と呼ばれる学校に通っていて、最初はおしとやかでユリにも友好的に接するように見せかけて、実はちゃっかりユリを排除しようと動いてたりして、腹黒いとまでは言えないかもしれないけど、表裏のある子。

まあ恋のライバルを遠ざけるためにやっちゃうのは、そういうことしちゃったりするよねっていう人間の汚い一面を見せてくれる人でもあって、朝倉くんにはそういうとこを見せてなくて裏でって感じだから、余計に嫌な人間味を感じさせてくれます。

ユリのカバンが電車のドアに挟まれて困ってるのに目があって気づいたはずなのに、知らんぷりしてそのまま行ってしまうとか、困ってるのを助けないっていうのが、余計にね。
でもそれを追いかけていって、なぜ気づいたのに助けないんだと言うユリがスゴイなと思いました。

その後の「見損なったぞ葉山」の部分は、ただの夢で実際にはなかった事なのか、あったことを夢で見たのか、ちょっとハッキリわかんないと思いましたが、たぶん夢でだけの話ですよね?

 

あとちょっと気になったのは、カバンが挟まれたら、今どきの電車のドアって開くんじゃ?って事。
都内だとこのマンガが描かれた頃でもそうだったと思うけど、地方だとそうでもないのかな。
まあ細かいとこなのでいいんですけど。

夏休みに入って、朝倉くん、新見くん、ユリ、葵で花火大会に行って、葵が朝倉に告白しかけるけど邪魔が入ってできないとか、朝倉くんの剣道部の合宿と同じ合宿所なのでユリは勉強合宿に申し込み、朝倉くんの暗いとこ怖いトラウマを知ったり、葵の祖母が倒れて呼び出されて止めるユリを振り切って朝倉くんは葵のところに行ったり、というエピソードがあります。

合宿で朝倉くんが葵のところに行ってしまってからは夏休み中会うこともなく2学期になります。

結局朝倉くんは私より葵を選んだんだとユリは考えてますが、この時点で別にユリと付き合ってたわけでもなく、合宿で一緒だっただけでユリと一緒にいるべき状況だったわけでもないのに。
ここらへんになると最初の頃と同じ感じで「なにいっちゃってんの?」と軽くとらえる感じじゃなくなってきてたんですが、これは最初の頃と同じような感じの「うぬぼれ」思考だったんだろうか?

 

朝倉くんは葵を選んだと考えたユリは、朝倉くんを避けます。
避けてたはずなのに、帰りの電車で一緒になってしまい、朝倉くんに夏の合宿の時のことを「悪かったな」と謝られ、ユリはなぜ謝るのかと気にしてないフリをします。

ここで朝倉くんが「じゃあなんで避けてた?」とストレートに聞いてくるのがスゴイなと思いました。

電車が揺れてよろけたユリを支えた朝倉くんと、いい雰囲気になりかけますが、朝倉くんがこの後、葵の祖母のお見舞いに行く、週一で葵と一緒に行ってるという事を聞いて、泣けてきてしまったユリは泣いたことに気付かれたくなくて、用事があると嘘をついて関係ない駅で電車を降りて朝倉くんと別れます。

ユリは新見くんに誘われてた文化祭のベストカップルに一緒に出場することにして、文化祭の準備に精を出し、忙しくすることで気を紛らわせようとします。

朝倉くんは、葵の祖母が倒れて駆けつけた時に、葵の祖母がよくなるまで葵のそばにいると約束していました。そして祖母のお見舞いに待ち合わせ場所で葵に会いますが、今日は祖母の容態が悪化したので面会できない、せっかくだから一緒にお茶しようと言ってカフェに入ります。

 

そこで葵は自分たちはカップルに見られるとか、デートみたいだとか言ったり、いつも大変な時に朝倉くんがそばにいてくれて、朝倉くんがいなかったら自分はだめになってた等といい感じの話をしますが、朝倉くんの方はそっけない態度。
朝倉くんはユリに「葵に依存されているだけ」と言われた事を思い出しています。

朝倉くんが前にお礼としてユリと一緒にファストフード店で食べた影響で、ハンバーガーを注文して食べるのを見て、葵が朝倉くんらしくないといった事から、ユリが強引だから引っ張られて朝倉くんが変わるのが怖い、変わらないでほしい、と言い出します。

そこで、容態が悪化してたはずの葵の祖母とバッタリ出会い、葵の嘘がバレます。
祖母がいる間は朝倉くんは、退院祝いを買いに来たんだと話を合わせてやりすごします。

祖母と別れて、葵は言い訳をし始めますが、それを遮って朝倉くんは、「もう葵のそばにはいられない、自分と近くにいることでお前がお前じゃなくなるなら、そんな関係はきっとどこか間違っている」といいます。

 

自分でもわかっているんじゃないのかと言われて、葵は涙を流しながらそれを受け入れ、「今までありがとう、朝倉くんのように誰かを支えられるくらい強くなりたい、だからその時までさようなら」と言って別れます。

最後は文化祭のベストカップルのイベント。
朝倉くんも見に来ています。

事前に内容は秘密だった3次審査で、女性から男性への愛の告白をする事になり、新見くんにはそういうイベントなんだから嘘でもなんでもいいんだと言われますが、ユリは朝倉くんの事を思い浮かべながら、朝倉くんの好きなところ、うすっぺらい気持ちじゃ通用しないとこ、大事な人をほっとけないとこ等をあげていきます。

そして涙を流しながら「ずっと好きでした」と客席の朝倉くんの方を見て告白します。

朝倉くんが舞台に近づいて「来い」とユリに手を出し、ユリを連れて会場を抜け出します。
なぜこんな事をしたのか、もしかして自分に言われてるとでも思ったのかとユリは憎まれ口をたたきますが、朝倉くんは素直に「あぁ、ちゃんと伝わった」と答え、ユリが朝倉くんに抱きついて終わります。

 


最後はちょっと駆け足な感じで、朝倉くんとユリの気持ちが通じた後のシーンがもうちょっとほしかったなーと思いました。
ちょっと小さめの二人の全身の抱きついてるシーンで終わりなのもちょっと残念。
しっかり朝倉くんの美形な顔のアップにしてほしかった。

とにかく朝倉くんがかっこよかったです。
見惚れる感じの造形美。
すっごく大好きな顔です。

お話の方は、もうちょっと朝倉くんの心情を描いてほしかったなぁと思います。
朝倉くんのユリへの気持ちの変化やユリをどう思ってるかは言葉ではほとんど書かれてません。

ユリと一緒にいる時に朝倉くんが笑顔を見せたり、ユリと食べたハンバーガーや依存されてると言ったこと等に影響を受けているらしきことはわかるけど、朝倉くんの好きの気持ちはいまいち見えてこなかった。

家庭環境&性格のせいで、あんまり感情を表に出さないできたから、最後の「他のやつには渡せない」っていうのが朝倉くんの最大限のユリへの気持ちの表現で、これからなんだろうなと思うけど。
これからってとこで終わっちゃってるけど、もうちょっと後日談がみたかったなぁ。

 

もうちょっとちゃんとユリを好きって表現してる表情とか見たかったなぁ。
ユリに好きとも言わずに終わっちゃってるしね。

ユリは後半はわりと本気の気持ちを感じる表情を見せてきて、電車で泣いた時とか、特に最後のベストカップルでの告白シーンはぐっときました。
あの告白シーンがこの作品中一番良かったシーンです。
朝倉くんのカッコいい顔が見れるのは他のとこだけど。

ユリのうぬぼれはある意味おちゃらけた感じだったので、もうちょっとそういう本気の気持ちを感じられるシーンが多い方がよかったな。

というかやっぱり、うぬぼれキャラというか、上っ面で駆け引きしようとする子はあんまり好きじゃなくて、ストレートにぶつかっていく子の方が好きなんですよね。

葵は嘘ついて朝倉くんとデートしようとするとか、最後まで、人間の内面の醜いいやーな一面を見せてくれました。

 

葵は幼馴染で普通に朝倉くんの家に行けちゃうような関係なんだから、普通にどこかに出かけようくらい誘えそうな気がするんだけど、あんまりちゃんと出てこなかった家の事情でデートに出かけるのも難しいとかだったんでしょうか。

祖母のお見舞いという理由がないと出かけられなかったとか?
なのかもしれないけど、そういう理由は出てこなかったので、なぜもっと普通に誘わないんだろうと思いました。

そういう勇気を出せなかったって事なのかな、彼女は。

葵は、朝倉くんがいい方向にだと思ってる変化を変わらないでって言っちゃってるし、ユリの事を悪く言っちゃってるのが、もうダメな感じです。
清純派な感じに見せて結構、内面ドロっとしてる感じだよ。
でもそれは朝倉くんによると、朝倉くんのせいでそうなっちゃってるってことのようだけど、でも今までそれが表に出てなかっただけで、そういう言動をする部分を内に抱えてたってことです。

 

それと最後に葵が言った「その時まで」というのが気になったんですが、強くなったらまた会おうってことですよね。それってまだ朝倉くんを諦めてないってことなのか、友達として会おうってことなのか、どうなんだろう?

新見くんは、ユリの事を好きになるわけじゃなく、ただ朝倉くんの事をゆるくライバル視してるだけでした。でも俺に脈ないんだったら言ってよねってユリに言ってたけど、結局ユリは新見くんには何も言ってないままなんだよね。新見くんはそもそもユリを本当に好きなわけじゃなさそうだったから、そんな事忘れてたけど、読み返すと言ってた。

本人も本気じゃなかったから、その件はどうでもよかったのかな・・・。
朝倉くんに女がいる(葵のこと)って事を匂わすために言ったっぽいから。
でも葵の事知らなかったら、新見くんが言ったことでそんなのわかんないって。
ちっとも忠告になってないから。

あと中盤、ユリが朝倉が試合に負けた後に、朝倉くんに「負けました」って言って、それに朝倉くんが「なんだよそれ」って微笑むシーンがあります。
ユリの気持ちを追っていってる読者からしたら、意地を張ってたけど負けました好きになりましたって意味だってわかるけど、朝倉くんからしたら、「なに言ってんの?」って感じだと思うんです、ここで負けましたって言われても。

 

「なんだよそれ」って微笑むとは、なんて優しく受け止めてくれるんだって感じで、まあ朝倉くんの変化が感じられるわけでもあるけど。

「はぁ?」って言ってもいいくらいの唐突発言ですよ。
そしてこの回はここで終わってるけど、マンガだからここでぶっちぎって終わっちゃって、次の日〜とかにできちゃうけど、この後、彼らはどうしたんだろうって思っちゃいます。

朝倉くんの家の事情とか、詳しく触れられずに終わったけど、そこら辺でまだまだ話を広げて続けられそうな感じだったけど、続けられるような設定を入れといたけど、続かないで終わっちゃったって感じなのかなぁとちょっと思いました。

続くなら、朝倉くんとユリが付き合うことになって、それから朝倉くんの家の愛情薄め、子供放置気味のお金持ちの家庭環境がでてくるという展開がありそうだったけど。

でも、これより後の香魚子さんの「きみとユリイカ」よりはこの作品の方がよかった。
女の子より男の子の方が好きなのは一緒だけど、ユリイカの麻衣よりこの作品のユリの方が見た目好みだし、男の子もユリイカの亘理よりこの作品の朝倉くんの方がカッコいいし。
なんか全体的に絵柄がユリイカよりハーツクライの方が好きだなぁ。