小説「(仮)花嫁のやんごとなき事情7 離婚の誓いは教会で!?」作者:夕鷺かのう イラスト:山下ナナオ 感想

 

中世っぽい世界観で、孤児院育ちの女の子が、お姫様の替え玉として、すぐに離婚するミッションで隣国の皇子に嫁いでいくお話。のシリーズ7作目。
エルラント中央教会にクロウ、フェル、ガウェインが乗り込む話。

以下、ネタバレありなので、ご承知の上。

「(仮)花嫁のやんごとなき事情1」感想
「(仮)花嫁のやんごとなき事情2」感想
「(仮)花嫁のやんごとなき事情3」感想
「(仮)花嫁のやんごとなき事情4」感想
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「(仮)花嫁のやんごとなき事情6」感想
「(仮)花嫁のやんごとなき事情7」感想
「(仮)花嫁のやんごとなき事情8」感想
「(仮)花嫁のやんごとなき事情9」感想

 

 

皇宮、リグレインからクロウに荷物が届き、開けてみると血に汚れた白いベールとリグレインの手紙が入っていた。手紙を読んでクロウは憤慨し、手紙を握りつぶして荷物と共に暖炉に投げ入れた。

フェルは、ユアンの騒動の後、クロウのために自分にできることをしてから去ろうと決めたのだが、晩餐会の時にクロウに偽物だと知られていたとわかったショックで動揺して取り乱し、思わずテラスから外に出て国に帰ろうとするが、侍女ラナに止められる。
今までも知っていて黙っていたんだろうから、今更だと言われて、納得し落ち着いたフェルは、クロウに向き合おうとするが、同じ日に三度も会うのを断られ、酔って醜態を晒したために、避けられているのかもと考える。

ガウェイン、ケイ、クロウがキリヤの部屋で、明日から中央教会に向けて発つための作戦会議。
ガウェインが妖精の存在に懐疑的なので、ケイがガウェインの祭服の赤い肩掛けをキリヤの手の甲に押し付けて証明する。ぱりんと陶器がひび割れるような音を立てて肌が赤く輝き、見る間に青黒くうっ血、下を見るとキリヤの影だけ無い。
ケイからキリヤを離すとキリヤの影がすうっと元に戻っていく。
キリヤは正教や聖詩篇が本能的に嫌いだが、なぜなのか、聖詩篇や正教に関する知識はない。

 

 

聖詩篇の成立は千年程前。12人の偉大な樫樹の賢人(ドルイド)たちが高等で編み上げた。
中央教会はこの伝説に則って、必ず12人で共同統治される。
聖詩篇は独特の節回しを持つ歌の形を取り、その教義は調度、天井画の装飾などにも展開されているが、秘儀は今でも口承で伝わっている。

最近、中央教会では禁書庫の位置が変わったり封鎖区画ができたり、その位置が毎日入れ替わり、妙な増改築が続くという異変が起きている。
封鎖区画と聞いてキリヤが自分も呪毒に使う夕輝晶を隠すために立ち入り禁止にしていたという。また墓標が増えたのも毒に身体が耐えられなくなった聖職者が倒れたなら説明がつく。

長い期間、被害者の意識を制御できる呪毒は、「晴れずの霧」
毒の使い手がすぐそばに潜むことで、大人数にかなり複雑な命令を下せ、ほぼ洗脳に近い形で被害者たちを意のままにできる。使い手が命令を変えるたび、呪いの中身も変化する。
威力が強い代わりに弱点も多く、解毒はフェルの瞳の他に、意思を砕くだけでも可能。
発現までに時間がかかり、聖地である教会を冒すには3年ほどは仕込む必要がある。
パールが呪毒で死んだのも3年前。

 

 

隠れずの月といい晴れずの霧といい、呪毒が多様化しているのが気がかりだとキリヤはいう。
なぜ取り替え子の僕が眠らずの蝶を作っていたかというと、呪毒は基本的には自分やシレイネのように人間と親しく交わった者にしか作れないから。

呪毒は呪い+毒。妖精は呪いは得意だが毒には疎い。
キリヤ程度だと作れる毒の種類が限られる。
強い呪毒、複雑な呪毒を作るのは同胞の中でも特に強い呪力と、豊富な毒の知識が必要。
つまり誰か妖精に毒物の知識を与える人間の協力があった、かつ希少価値の高い夕輝晶を難なく入手できるような人間。

幼少期から30回以上は毒殺されかけた相手、リグレインが当てはまる。

フェルはクロウにずっと避けられているが、キリヤの所へ行ったという情報を掴んで、帰り道で待ち伏せする。見慣れたはずの廊下の壁をじっと見ていると壁に扉が塗り込められたかのような色の違う囲みを発見、叩いて空洞を確認していると「そこはパールの部屋だ」とクロウに声をかけられる。

 

 

わざわざ父直属の紅龍師団兵がやってきて塗り込めていったらしい。
また部屋の中には何もなく、パールの遺品は全て焼き払われてしまった。
皇帝が息子の痕跡を徹底的に消し去る理由は、子殺しの容疑者として限りなく黒に近いリグレインをかばうため。

「俺を孤独から救う者、幸福を分かち合おうとする者、その全てを奪い去る、あの女の呪いに巻き込まれた人間の、これが末路だ」

明日からの中央教会への視察にガウェインとフェルにも同行してもらうと言われるが、用件は「お前は知らなくていい」と言われてしまう。それ以外の話をしようとしても話すことはないと避けられ、クロウの前に回りを繰り返した後、思い切ってフェルは昨夜の無礼を詫び、晩餐会での様子を尋ねるが、やはり何も覚えていないんだなと言われ、いちばん大事な事は覚えていると答える。

 

 

クロウはそれをフェルにキスした事だと受け取るが、フェルは身代わりの事とは言えず、クロウが唇を指でなぞるのを見て、酔っての口関係=吐いた事かと勘違いする。
勘違いしたままの会話が続き、フェルが何も覚えていないと言い出すと、クロウの機嫌が悪化し、これも本当に覚えていないのかとフェルにキスする体勢になる。

クロウの冷えた態度が恐ろしくフェルは彼の頬を平手打ちしてしまうが、彼はそれをおとなしく受け、抵抗はそれで終わりか?と言って、顎を掴んでいた手を下にすべらせていく。
フェルが怖くて目をつむると、「俺が恐ろしいか?それでいい心など許すな、恐れていろ」という。
そして教会で言うつもりだったが今告げておくといって、「お前の傍にいたくない、お前にはうんざりだ、もういい加減にしてくれ、妻としての自覚も覚悟もないのに」という。

そこへ途中でガウェインが来て、フェルに不埒なマネをしていたのかと怒ってくるが、フェルはクロウに言われた事に胸が突き刺されたように鋭く痛んで、動けず、泣きたいのに涙が出なかった。
ガウェインに支えられながら、家に帰りたいなら何をしてでも連れ戻してあげると言われるが、それでもフェルは帰らないと言った。

 

 

そしてフェルは、教会に行った時にクロウに自分から身代わりの事を打ち明け、それでもあなたの役に立ちたいんだと伝えようと決める。

中央教会へは馬車で半日程度の距離。
教会へ行くのは、クロウ、フェル、ガウェインの3人だけで、ラナも今回はついていかない。

中央教会で。
最初に出会ったのは、第一聖席カイズ。生真面目そうな天才。史上最年少で第一聖席を継いだ。
ユアンの恩師で仲介を頼んだのは、第十一聖席オーゼン。くだけた口調で話す人で、カイズはオーゼンの弟弟子だった。

ドルイドの交代は知識の継承をもって行う。
楔石とは初代皇帝が中央教会に預けたもので邪悪なものを退ける石という事以外は、それが何なのかどこにあるのかは代々の第一聖席にしか伝わらない。

 

 

教会に来た目的が、正式な結婚前の教会見学というのは表向きの理由で、略式で結んだ神誓を解除したいのが本当の理由だとクロウがいうと、みんな寝耳に水で驚く。

元々はフェルが離婚しようとして、神誓も解除してほしいと言っていた事ではあったが、今は「彼の不安材料を取り除いてから離婚する」と考えているので、今すぐ離婚という方向にクロウが進めていくのは困る。

フェルと知り合いだからということでガウェインが神誓解除の儀式の介添え役に指名され、儀式のための沐浴に必要な物を持って、フェルの部屋を訪ねる。来るまでに迷路のような増改築に迷って床下から出てきた。
神誓の意味
神誓は太陽神やその眷属とも別名とも言われる誠実な誓いの神に立てる。
重要なのは太陽神の名のもとになされた誓いは「光の守護を得る」ということ。
「よこしまなものはあわいを好む」といわれるが逆を言うと不確かなもの、曖昧なものにしか寄り付けないということ。

 

 

つまり生きている人間同士が結婚の神誓を結んでいる限り、あわいを好む悪しきものは決して神誓をまたいでその人間に手を出すことはできない。
結婚の神誓は命という自らの存在そのものを質にして死や絶望や背徳や魔性、この世の邪悪なすべてものもから相手との関係を守り抜くという意味がある。
この命を盾にしてあらゆるものからあなたを守り、命ある限り万難を退けあなたと共にある、というのが結婚の神誓の真の意味。

ガウェインはフェルが神誓の解除をしたくないなら断っていいというが、フェルはしばらく考えたいという。そして最初に決めていた通り、クロウに謝って自分から秘密を明かし、彼のためにパールのことを調べようと思う。

フェルはガウェインが用意してくれた修道女服を着て、禁書庫を探ることにする。
禁書庫のドアは天上につく高さにあり入りあぐねているとカイズに見つかり、禁書庫への梯子を知らなかった事で、近づいてベールをあげて顔を見られ、修道女でなく第三皇子の妻だとバレる。

 

 

カイズとの会話でカイズには偽りがないと思ったフェルが、増改築を繰り返す理由を尋ねると、この教会は病んでいる、誰がいかに変わっても私は約束をしたから守らねばならない、3年前に同じ病に気付き立ち向かわんとした者がいた、知りたければ答えはあちらに」と言って、禁書庫の中の革張りの古書のある場所を教えられる。

フェルがカイズに言われた場所を調べると、それは聖詩篇の写本に偽装されたパールの日記だった。

パールの日記の内容
母が中央教会にしかけた呪毒の名は「晴れずの霧」
中央教会に母と内通している者がいる
母から妖精王に器を売られた

フェルがパールの日記を読んでいると誰かの気配がして見ると、亜麻色の髪、明るい青い目、クロウのように髪を編んだ青年が立っていた。
しばらく会話した後、名前を尋ねると「覚えてないのか?思い出して。迎えに来ると言っただろう」と言ってくる。

 

 

ここでは明言されていないが、この青年はおそらくパールの姿をした妖精王。
フェルは、妖精王の事をはっきり覚えていないが、背を向けて座って何かを咀嚼するものがいる悪夢として、妖精王の記憶をよみがえらえることがある。
ユナイアにいた頃から、シレイネが思い出してはダメと言って、おそらく青い夕輝晶を使って、フェルの妖精王の記憶を曖昧にし、忘れさせていた。

フェルは妖精王に連れて行かれそうになるが(たぶん)、クロウとオーゼンが禁書庫の近くに来たことで、妖精王が姿を消し助かる。

オーゼンがクロウを案内して教会を回っていたようだが、オーゼンは忙しいだろうからこの修道女(フェル)に頼むことにするといって、フェルはクロウによく知らない中央教会を案内することになる。
クロウはおそらくフェルの変装に気付いていて、あえて案内をさせ、あれこれ聞いてフェルを困らせた後、問答室に連れて行ってくれという。

 

 

問答室は、聖職者と俗人が一対一で問答しながら行うお悩み相談室のようなもの。
クロウになんでも好きに質問してみろと言われ、お菓子や犬に例えて、本物だと思ってたものが偽物だったら?という問いをするが、クロウはそれを良しとする回答をする。
クロウが「月がほしいとい子供がねだったらどうするか?」という質問をしてフェルは「水面に映した月を差し出す」と答える。詭弁だと言われると、信じた瞬間に手に入れたものは望むものになると説明しクロウはその言葉に納得する。

問答も案内も終わるが去り際にクロウは
「俺はずっと変わらない」
「俺を動かすのはつまらない真実じゃない。過ごした時間の重みだ」
誰にとはいわないが、伝えておいてくれという。

フェルはその言葉にクロウを信じていられると思う。
そしてクロウにパールの日記を手渡す。
最後にクロウはフェルに「指輪つけっぱなしだぞ」と言って去る。
クロウにバレててことをフェルは知る。

部屋に戻ったフェルは中にいたカイズに人質に取られる。
カイズはオーゼンをはじめとする他の聖職者達に追われていた。

カイズの回想
昔、カイズはオーゼンに言われてこの教会を守ると約束した。
その彼が変わってしまっても。
オーゼンは妻帯者で妻と娘が国境沿いの村に住んでいたが、おそらく今は亡くなっているのではないかと推測される。

一方、その騒ぎでみんなの目がカイズ達に向けられている間に禁書庫を探ろうとしているクロウを、ガウェインが、何でもかんでも1人で抱え込むなと言っただろうがと頭を叩く。
ガウェインは増改築が聖詩篇になぞらえていることに気付く(フェルも気付いていた)。

クロウは最初にオーゼンと話した時にユアンに聞いていた話と食い違いがあった時から疑問を感じ、カイズに接触を図っていた。カイズが中央教会の異変に気付いたのは半年前からで、聖詩篇が教会を蝕む呪いを抑えることに気付いて増改築で教会を守ろうとしていたが、決め手にはならなかった。
彼は呪毒の事はよく知らないので、その異変の原因が呪毒だという事にも気付いていなかった。

反カイズ派の動きが思ったより早かったので、日記の内容についてカイズと詳しく意見交換する時間をとれなかったが、クロウがここにいる間に片を付ける事にし、カイズに協力してもらって聖職者たちを煽って陽動してもらった。フェルを人質にしたのはカイズと一緒の方がフェルが安全だと思ったため。

 

 

だが、呪毒の隠し場所が判明していない状況で、時間内に見つけなければいけない。
パールの日記に残された言葉と聖詩篇を重ね合わせ、クロウとガウェインは初代皇帝モルドレッドの墓標の下に呪毒があると推理し、推測通りの墓標の下で拳大の赤い夕輝晶を見つけるが、ガウェインの怪力でも砕けなかった。

そしてそこへ聖職者たちを引き連れてやってきたのはオーゼン。
彼がリグレインの内通者で、「晴れずの霧」で聖職者たちを操っている黒幕だった。

オーゼンの言葉
「赤い病」は呪毒のことだけを指す言葉ではない。
この国は守る価値がないほど根から腐っていた、国に与する教会も。
カイズはそれでも守ろうとしていて、それがすっかり嫌になってしまった、それだけだ。

クロウとガウェインの戦闘力で聖職者たち多数を制圧するのは簡単そうだったが、オーゼンが「喜んで命を棄ててくれ」と命令したことで、彼らは短剣を己の首に突きつけ、彼らが一斉に自害するのを2人で止めるのは難しい状況になり、クロウとガウェインは武器を手放す。

「晴れずの霧」の夕輝晶を返すようにオーゼンに言われて打つ手がなかったところへ、フェルがステンドグラスを蹴破って、外から飛び込んできた。

 

 

フェルはカイズからクロウのオードコローニュの香りがする事で、クロウとカイズが共闘している事を察し、クロウの意図を聞いたが、自分の瞳が呪毒に役立つはずだし待っているだけはできず、カイズの協力を得て、クロウのところへ行ったのだった。

クロウに今の命令を教えてもらいフェルは「進んで命を諦めることは許さない」と叫び、クロウの持っていた夕輝晶は割れ、聖職者達は持っていた短剣を取り落とし倒れていった。
オーゼンはいつの間にか、姿を消していて、捕らえることができなかった。

クロウ達が帰る前日、カイズの部屋にガウェインとクロウは呼ばれて話をする。
オーゼンは見つからなかったが彼の部屋から押収した大量の手紙を調べればリグレインの関与の証拠がみつかるかもしれない。

オーゼンが教会の異変に関与していると薄々感づいていたのに外部に助けを求めなかったのはなぜか聞かれて、カイズは、昔と何も変わらないと信じていたかったため、真意を問うことができなかったのだという。

 

 

3年前、オーゼンがどこか様子がおかしくなった事に気付いて、問うたことがあるがカイズにはよくわからない答えで意味を教えてもらえなかった。オーゼンが変わる前に何を知ったのか、わからないが彼なりの信念を見出したのだろうと思うとカイズは言う。

パールは皇宮からの帰途に中央教会に寄ってカイズに協力を求め、ティカルから戻ったら詳しい話をする約束だったが果たせず、カイズの元にパールの日記が送られてきた。
パールの物が処分されだしたので、写本を偽装して禁書庫に隠した。

日記の前半は、クルヴァッハ南東部の妖精と妖精王、聖詩篇と正教についての民話の採録がほとんどだった。

日記と聖詩篇を照らし合わせて、妖精、妖精王とは何かについてのカイズの私見。
妖精の概念は第一聖席に継がれる秘儀の中に詳しく語られている。
妖精は人間ではなく、生き物ですらない、この世とは別のどこか「あちら側」からやってきている何か。
妖精には彼らの世界があり、そこから「曖昧なあわい」という隙間を見つけてこちら側に紛れ込んでくる。
彼らは人間の悪意、悲嘆、絶望といった負の感情が好物だからくるのだという。

 

 

家族、恋人、大切な友人など失われる関係が深いほど強く甘い糧となる。
非業の死を遂げた魂魄と屍は彼らの素晴らしいご馳走。
妖精界のすべてを統べる主が、妖精王。

正教が国教になっているのはエルラントとユナイアだけで、世界的にみれば極地的な信仰。
聖詩篇は聖典の体裁をしているが神の導きでもなんでもない。
宗教となったのは成立よりずっと時代を下ってからの後付け。

妖精が聖詩篇を嫌うのではなくて、妖精が嫌うように作られた、つまり妖精に対抗する武器として千年かけて編纂されたのが聖詩篇。
クルヴァッハ周辺は妖精にとって棲みやすく動きやすい土地、妖精が跋扈する地であったがために対抗手段が必要だったということ。

 

 

中央教会は、こちら側へ妖精の浸出を防ぎ、紛れ込んできた彼らの力を殺ぐ目的で存在しているもの。
その兵器は実際によく機能し、こちら側に来る妖精は数を減らし、今や妖精は迷信とされているが、中央教会の高位聖職者はひっそりと辺境を守ってきた。

エルラント建国の200年前は、妖精の害も収まってきていた時期のはずなのに、なぜ新興国エルラントが国教としたのか?

夕暮れは妖精が最も好むあわいとされる。
それを身に宿して生まれるとは何を意味するのか?

この場にフェルを呼ばなかったのは、彼女は既に何かよくないものと接触した気配があり、出来る限り遠ざける方がいいと考えたから。妖精は自らの存在を知られることで相手との繋がりを深める。

クロウがカイズにリグレイン妃の目論見を砕くための協力をお願いすると、無論そのつもりだと承諾される。そして、カイズは手首に撒いていた腕輪についていた青い飾り石=楔石をクロウに渡す。
楔石は初代皇帝より中央教会に託された破邪の宝。

パールが死の直前にカイズに貸してほしいと乞うたあるものは楔石のことだった。
これがあればパールは死ななかったかもしれない。
青い夕輝晶に見えるが中ほどに何か紋様が浮かんでいる。

楔石はただ「鍵」だとだけ伝えられ、用途は聖席12人で分けて継承しているため、カイズには使い方がわからない。他の者に話を聞き調べておくとカイズは言う。
貴重な物ではあるが、使えばこその物で、カイズは教会から動けない。

クロウとガウェインの会話
ガウェインはクロウがフェルを傷つけてまで遠ざけようとした理由は、リグレイン妃を殺すつもりだからだとうという。
今までは腐っても母親だと諦めていたが、リグレイン妃からの贈り物のヴェールで、母の悪意がフェルに向かおうとしていることを悟り、フェルに手を出すのは絶対に許さない、それならあの女を殺してでも止める、と決意した。

 

 

けれど自分を守るためにクロウが母親を殺したと知ればフェルは思い悩むだろうから、何も知らないまま、逃げやすいように突き放す。

ガウェインはクロウに、守るの意味を履き違えている、フェルはクロウと一緒に悩むこともできないのか、という。黙っている事はお前は共に歩むに値しない人間だと突き放しているのも同然。
フェルはクロウが身代わりに気付いている事を知っていると、クロウに告げる。
全部を踏まえて、フェルとちゃんと話をしてこいとガウェインはクロウにいう。

フェルの部屋にカイズが来て、クロウが言っていた神誓の解除は嘘だと告げて、よく話し合うように言って去る。すぐ後にクロウが来て、フェルと話をする。
フェルはカイズに離婚はしないと聞いたというと、クロウは「心変わりの方は紛れもなく方便だが、神誓の解除はフェルが望むなら」というが、そこでフェルはわんわん大声で子供のように泣き出して「本当にあなたに離婚されるんだと思って」という。

クロウはフェルがいつも離婚したがっていたし梨園を切り出せばむしろ喜ぶと思っていたから、そんなに気に病むと思っていなかったんだといって、フェルの涙に狼狽する。

フェルはクロウに本当のことを言おうとしたが、指で唇を押さえられ、「シレイネでいいんだ、シレイネでいれば、お前自身は自由でいられる」と言われる。
「何も知らないまま逃げろ」というクロウに、フェルは「役に立てるのに逃げたりしない」というと、「あの女(リグレイン)がお前を狙う、巻き込みたくない」というが、フェルは「一緒に地獄に行くつもりだ、今まで積み上げたあなたとの関係性と善意を信じているから嘘や隠し事ぐらいで信頼は揺らがない」という。

 

 

フェルは「一緒に地獄に落ちないですむ方法を考えよう」というが、クロウは「それは詭弁だ、あの女は殺さなければ殺されるだけだ」という。
フェルはクロウが、今までに何度も諦めてきたのだと察する。
そして、以前した月が欲しいと泣く子供に水に映した月を差し出す話になぞらえ、「今までたくさん嘘をついてきたけど今だけちゃんと本当を伝えたい、わたくしあなたに月を残して行きます」という。

「全力であなたを助けて、全力であなたから逃げてみせま」と言った所で、クロウにキスで口をふさがれる。そして「お前が月をくれるというのなら、俺も全力で足掻いてみよう、もう諦めるのはやめだ」とクロウはいう。

「俺は何も変わらない、俺はお前を信じ続ける、改めてこれからよろしく、共犯者どの」

ガウェインとフェル。
ガウェインはもうクロウへの嫌がらせはやめた、あの男なりに重たい覚悟を決めているのも分かったので、アタシもそれなりに動いてやるのが筋じゃないかと思った」といって、ユナイアに戻って自分ができることをしてくるとフェルに告げる。
ガウェインは黒龍城への帰路の途中で別れる。

春分節の祭典に皇宮に来るようにという、皇帝からの手紙を届けにケイが来る。

リグレインと姿は見えない妖精王との会話
探しものは見つかったのかというリグレインに、楔石も日記もだめだった、禁書庫にあると思ったけどやっぱり自分で持っておくんだったという妖精王。
彼女(フェル)に会ったが、連れて行くには知識が足りなかった。俺の事を知らない、覚えてもいない。

 

 

楔石は見つからず千年かけて築かれた教会の守りを完全に潰すことはできなかったが、呪いが内側から聖地を蝕み少しずつ力を弱めてくれた。こうして「彼(妖精王)」が自由に動けるほどに。

「呪われた私の子、ああ、かわいそうに。お前はまた苦しむの」
あなたのせいで、また愛しい者が消えるのだから。


リグレインを最初は、元敵国の姫で皇帝を憎んでいるために自分の子でもある皇帝の子を殺したり殺そうとしたりする妃という、クロウの暗い背景の中のキャラなだけかと思ってましたが、かなり物語の謎の核心のとこにいる人でした。

憎んでいる皇帝じゃなく、その血を引く自分の子を殺す、ずっと苦しめ続けるというのがなぜなのか、なぜ皇帝じゃなくクロウを苦しめるのかが疑問ですが、謎がわかればわかるのかなーと思ってます。
今のところ、皇帝は全く登場してこないので、皇帝がこれらの一連の事をどう思っているのか全くわからないですし。
ただ、リグレインを寵愛しているらしいこと、パールを殺したのがリグレインとわかっててそれを隠すために、パールの痕跡を全て排除するくらいに、リグレインへの寵愛がすごいらしいってことのようです。

パールは確か、リグレインの子ではあるけど皇帝の血を引かない不義の子らしいから、リグレインの憎む皇帝の血を引いていないのに、その我が子をクロウ(最終的には皇帝)を苦しめるための道具として殺してしまうくらい、我が子への愛情よりも憎悪が激しいってことなんでしょうかね。

最後の月の例えは、フェルがクロウに月を残して行くというのは、クロウの欲しい物をあげてから去るって意味で言ってるのかな。
でもフェルは月=クロウの欲しい物をエルラントとユナイアの平和等だと思ってて、クロウはフェルだと思ってて月の解釈が違っているんじゃないかという気がします。

妖精王がやっとちょっと登場したけど、まだまだ妖精の謎はあまりわからないまま。
ただ、最初からそんな感じではありましたが、世間一般の妖精のイメージと違って、この物語中の妖精は、だいぶ悪い物みたいですね。
人肉食べてるのかなっていう描写もあったし。
本物のキリヤももう妖精に食べられちゃったってことなんだろうか。
そうしてみると、キリヤっていい子に育った随分人間ぽい妖精なのかな。
シレイネはかなり性格悪そうで、セタンタとフェル以外には冷酷だし。

クロウとフェルの会話を聞いて、まとめようとして書いていると、こうだからこうなる、という理由がよくわからない事が多いです。それぞれの言葉の意味はわかっても、前の言葉からなぜ次の言葉に繋がったのかが、よく読み取れないことが多い。

まあとりあえず、まだフェルには全部話せてない、妖精の縛りがあるから話せないし、すれ違ってる部分もあるけど、両思いだってことはわかってるので、細かい部分はまあいいかって思ってます。

 

「(仮)花嫁のやんごとなき事情8」感想

 


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